交響曲第5番変ロ長調
セルジュ・チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団(85)
86/09/24
AUDIOR AUD-7007〜8

 このところAltusレーベルは随分と強気の価格設定をしている。おそらくチェリの来日公演盤の売り上げが良いことで勢いづいているのだろうが。今年(2007年)6月に発売された1986年10月15日の2枚組(「死と変容」やブラ4他を収録)は各種通販で4000円強という時代錯誤的高価格で売られている。(例えば「犬」ではオンライン会員特価が税込¥5,094、マルチバイ割引が適用されても同¥4,246である。)その半年前に出たブル5(同年同月22日)にしても、チェリゆえ2枚組になるのもやむを得ないとはいいながら、それだけ(カップリングなし)で約3500円(「犬」も「塔」もほぼ同価格)を出す気には到底なれなかった。しかも以前とは異なり一向に値下げする気配がないのが腹立たしい。どうせ図に乗っているのだろう。(ちなみにネットオークションでも3000円前後まで高値更新されるため、諸経費を加えたら新品購入と大して違わなくなってしまう。)来月=10月発売予定の上岡敏之&ヴッパータール響による7番があまりのスロー演奏(何と90分超!)のため1枚には収まらないと判明し、急遽2枚組への仕様変更を余儀なくされたものの、初回生産分については価格を据え置いて特別に1枚価格にするという太っ腹なところを見せたTDKとは全くエラい違いだ(←我ながら見苦しい八つ当たり)。既に他ページで宣言しているはずだが、値崩れせん限り手を出さんぞ!
 などとつむじを曲げていたある日、ヤフオクで見つけた当盤に発作的入札、そして無競争落札となった。かつて同じ価格(1500円)で入札し見事ひっくり返されたことがあるが、これくらいなら払っても良いという上限(註)だったので、まあ満足である。(註:実際には1割り増しで自動入札を入れていたが・・・・)なお、チェリのブート2枚組としては比較的低い額しか付ける気にならなかったのは理由がある。同レーベルの85年盤(AUDSE-523/4)よりも録音がかなり劣るとの見解を某掲示板で目にしていたからである。(「AUDIORとしては最低レベル」とのコメントまで出ていた。)とはいいながら演奏自体はかなり高く評価されていたし、件の来日盤のほぼ1ヶ月前の演奏ゆえ解釈にもそう違いはないと予想される。つまり先に「発作的」と述べたけれど、実際には「代用品」として入手するのも悪くないと考えた訳である。
 実は本ページ執筆前にチェリの5番録音4種を比較したあるブログを発見し、そこで当盤に収録されている演奏の特徴も端的に表現されているような気もしている。それゆえあまり書くことが浮かばないのだが・・・・とりあえず何か綴ってみることにしよう。
 やはり音質はイマイチ。第1楽章序奏のファンファーレから華やかさが感じられない。この頃のチェリは結構派手に叫んでいるはずなのに、その声までも控え目と聞こえる。これでは89年の7番(AUD-7009/10)と同じく生演奏ながら「デッド・レコーディング」である。(ついでながらベルリンでの演奏という点も共通している。)しかしながら、あちらと同様にBoseのAWMで再生したら特に不満を覚えずに済んだ(7番85年盤ページ参照)。後に買った同社のWave Music Systemでも然り。明晰ながら少々潤いに欠ける正規盤(93年)とは肩を並べ得ると思う。
 次に演奏についてだが、某掲示板で言及されていた精度の高さには私も完全に脱帽であった。先述のブログにおける「指揮者・オケともベスト」というコメントにも十分肯ける。比較対象とした85年盤からは録音に起因する臨場感だけでなく、ライヴ特有の躍動感も伝わってくる。けれども、当盤を通しで聴いた後では「らしくない」(チェリにしてはちと荒っぽい)と思わないでもなかった。一方、(ここでも7番ベルリン盤と一緒だが)静謐さを湛えた当盤の方が気品という点で上回っているような感じだ。それが最も顕著なのは某掲示板で指摘されていたアダージョである。全休止以降(3分15秒〜)の悠久たる流れに耳を傾けていたら自然と溜息が出た。たぶん鈴木淳史が書いていると思うが、もはや時を超越している。85年盤の同箇所からこのような印象を受けるようなことはなかった。よって指揮者が本領を発揮しているのはこちらといえるかもしれない。
 どうもこのページは受け売りばっかりに堕してきた感があるのでそろそろ止めにする。確実に言えるのは僅か1年違いの録音ながら2種の「緑」がかなり趣を異にしているということである。とはいえ、両方を備えておくほどのことはないと思われる。また当盤より音がちょっとばかり良いだけだろうから、この際Altus盤への未練もキッパリ捨てよう。

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