交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」
セルジュ・チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
1983年(?)ヘラクレス・ザールでの演奏会を収録した映像(音声はモノラル)

 演奏終了後にコピーライト83年という字幕が出るので、ミュンヘン初期の演奏ということでたぶん間違いないのだろう。(チェリの風貌からもそれは窺える。)底知れぬ沼のような深みのあるミュンヘン後期の演奏は時に「理解不能」と感じさせるようなこともあるので、私としては「わかりやすい」80年代前半の演奏の方が好ましい。演奏は非常に素晴らしい。シュトゥットガルト時代の美音とミュンヘン時代の雄大さという両者の優れた特徴を兼ね備えたハイブリッド演奏である。ヴァントの来日公演のような痛々しさは全くなく、チェリの颯爽とした指揮ぶりにも魅了される。カメラワークもまたいい。掛け声とともにオケを鼓舞する指揮者の正面アングルがいい。オーケストラのメンバーの演奏姿もちゃんと(身体全体が)収められている。(チェリは奏者の指ばかり映した映像のDVD化を許可しなかったそうであるが、指揮者と独奏者以外はピントをぼかすか楽器や手だけを映すようにして、メンバーの顔がハッキリ写るような撮影を絶対に許さなかったカラヤンとはまさに対照的である。)時に客席後方からオーケストラ全体を映すのも悪くない。特に曲の最後の最後は効果的だった。(ヘラクレス・ザールの柱は邪魔だが。)終楽章コーダの「ザンザンザンザンザンザン(ドッレッドッレッドッレッ)」という一度聴いたら耳を離れない弦の刻みのところは、許が「世界最高のクラシック」で書いていたこと(ヴィオラ奏者の目が「完全に据わっていた」云々)が本当なのかのか確かめるべく興味津々で観たが、そんな風には見えなかった。ただし、クレーメルと似てるようで似てないような(=結局似てない)ちょっと怪しげな風貌のコンサート・マスターが必死で弾いている姿にはつい見入ってしまった。
 もしこのビデオがステレオ音声だったら番外だろうが何だろうが1位にしたところだ。(実はベト5の「隠れ1位」はカラヤン&BPOによる来日初公演の演奏である。高音質のステレオ録音で残されている。)ということで、いつの日かこの演奏のステレオ音源が発掘され、CD化されたら絶対に1位にする、と予告しておく。

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