交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」
セルジュ・チェリビダッケ指揮シュトゥットガルト放送交響楽団
73/11/09
The Bells of Saint Florian AB-11

 チェリ&シュトゥットガルトの4番は最初にARKADIA盤(CDGI751.1)を入手した。ところが、後で入手したいわゆる「鐘」盤と演奏時間はほぼ同一である。どうやら両盤は同一演奏のようであり、ARKADIA盤の1966年11月22日という日付は間違いらしい。
 実はそれを知らずにダブり買いをして地団駄を踏んだのではなくて、知っていて敢えて買い直したのである。ARKADIA盤は音質がかなり悪かった。左右の分離がイマイチで、しかもバランスが右へ左へフラフラする。テープの保存が良くなかったのかたびたび音が歪む。演奏は良かっただけにガッカリした。ところが、チェリビダッケのあるファンサイトではARKADIA盤とEXCLUSIVE盤が別演奏として(前者は「録音悪く、演奏も広がりいま一つ」、後者は「集中力あり、研ぎ澄まされている」と)評価されていた。トラックタイムがほとんど同じであるにもかかわらず。(78年4月19日とされるEXCLUSIVE盤も同一演奏と考えてまず間違いない。)ということは、レーベルによって音質にかなりの差があるに違いないと睨み、ずっとオークションで狙っていた。そして「鐘」盤を入手したのである。余分な出費には違いないが、それだけの価値はあった。「鐘」盤ではARKADIA盤で述べたような欠点はほとんど気にならない。海賊盤としての水準は優にクリアしており、一部正規盤と比較しても、音質は部分的に劣るにせよ音が生きている(ライヴの雰囲気が感じ取れる)という点では上回るかもしれない。(浅岡弘和は国内で初めて出回った海賊盤らしきARKADIA盤を自身のサイトで4番の「大本命」とまで持ち上げている。もし「鐘」盤を聴いていたら大絶賛だったに違いない。ちなみに彼によるとEXCLUSIVE盤は第2楽章に欠落があるということだから、「鐘」盤の購入は大正解だったという訳である。)
 さて演奏であるが、第1楽章が19分台で第2楽章が17分台というのはちょっとバランスが悪い(2楽章の演奏時間が相対的に長い)と感じるのだが、聴いてみるとさほど違和感はない。1楽章のコーダでテンポを落として終了し、遅めの2楽章に入るという用意周到ぶりが功を奏しているのかもしれない。なお1楽章の最後の「ソ」は後のミュンヘン・フィルとの演奏のような「軟着陸」ではない。第3楽章は10分台でごくフツーのテンポ。で25分台という終楽章が続く。浅岡はコーダのヴィオラの刻みを「超常的解釈」と評したが、おそらくは実演に接してからそのように思うようになったのだろう。確かにこの演奏でもヴィオラの独特の音は耳に付くけれども、凄味を感じさせるというほどではない。それより壮絶なのは指揮者の掛け声である。終わりの方は叫びっぱなしである。チェリが指揮した4番の実演に接した許光俊は、「世界最高のクラシック」に「ここ(コーダ)を弾く際、ヴィオラ奏者達は何かに憑かれているかのようなすごい迫力で一心に弓を動かし続けていた。目は完全にすわっていた。その風景は忘れられるものではない。」と書いた。が、この演奏で何かに憑かれていたのは指揮者の方だったと思う。おそらく終了後は放心状態だったのではないか。私はチェリがベートーヴェンの序曲(たぶん「コリオラン」だった)を振ったかなり古い映像(白黒&モノラル)をNHK-BSで観たことがあるが、あの演奏終了後のグッタリした指揮者の姿が目に浮かんだ。それまで彼に取り憑いていた何かが突然離れたようである。あれも決して忘れられるものではない。
 ドイツ・グラモフォンからはスウェーデン放送交響楽団との演奏(69年9月24日)が4番の正規盤としてリリースされている。事情は知らないが、シュトゥットガルト放送響との演奏では「鐘」盤のような良好な録音を所有していなかったのだろうか? 3〜9番のうち1曲だけオーケストラが異なるというのは、一貫性に欠けるという点で他人事ながら非常に惜しいと思う。とはいえ、このスウェーデン盤にも興味がある(特に第4楽章の終わり)ので安く入手できるようなら聴いてみたい。1000円程度の廉価盤出してよ。DG殿、そしてヨアンちゃん。(2004年8月追記:楽天フリマに出品されていたDG正規輸入盤をゲット。本体価格が税込1050円で、諸経費を加えたら決して激安という訳ではないが、つい衝動買いしてしまった。)

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