交響曲第3番ニ短調「ワーグナー」
セルジュ・チェリビダッケ指揮シュトゥットガルト放送交響楽団
80/11/25
The Bells of Saint Florian AB-1

 この演奏では第1楽章の1分ちょうどにユニゾンによる「ドーーーーシラソ#、ラーソーファミレ」が来るが、その鳴り方が控え目なのに驚かされる。2度目にティンパニを伴って鳴るところも同様である。むしろ2分28〜38秒頃に音量としてはピークを持ってきているようである。(チェリが煽っている声が聞こえる。)ただし最後の音はやはり控え目である。また3分丁度から14秒間の音量もかなり大きいが、その後すぐに抑制を利かせている。また、ヴァント&NDR盤のページに書いたピーク処理であるが、そこに至るまで(12分11〜18秒)は結構盛り上げるものの、それ以降はまたしても抑制気味で、音量のピークは少し後(13分50秒からの約15秒間)に来る。ここまで聴くと、この演奏がかなり異色であるとわかる。ニトロ化合物のような自己反応性物質を運ぶので慎重に慎重に歩みを進めているといった感じである。けれども、チェリは盛り上げるべきと思ったところを一つ一つしっかりと盛り上げている。1つの楽章中でここがクライマックスと思ったところに焦点を合わせるヴァントのスタイル(用意周到型)とは異なっており、「場当たり的」と言ってしまえばそうなのかもしれないが、そのやり方が非常に丹念なので、「こういうのもありなんだろうなぁ」と認めざるを得ない。
 この演奏では3楽章の冒頭部に驚かされる。騎手が馬に鞭を入れるがごとく繰り返しオケを鼓舞している。「シェエラザード」ではチェリのかけ声を鬱陶しく感じたこともあったが、当盤ではオケとともに自分にも活を入れられたようで、すっかり乗せられてしまった。その勢いで終楽章に突入する。ここは見事の一言である。第1楽章のような抑制はあまりかけない。曲全体の中で終楽章をピークに位置づけていたことがよく分かる演奏である。コーダでテンポをかなり落とすものの、節度はあくまで保たれていると思う。最後の「ラ(D)」をやや小さめにする「軟着陸」はお見事!
 ということで、私がこの指揮者をただならぬ力量の持ち主であると認めるようになったのは、(ヴァントもそうだったが)第3番を聴いた時なのである。
 なお、正規盤も同じ音源を使っているとのことなので、解説書には拘らないという人が安く売られている「鐘」盤を見つけたという場合は別だが、正規盤を買えばいいと思う。何となくであるが、音質はそんなに変わらないという気もする(9番を聴き比べての印象)。

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