交響曲第3番ニ短調「ワーグナー」
セルジュ・チェリビダッケ指揮ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
91/09/14
En Larmes ELS 02-203

 かつてsardana recordsからsacd(←いかにも高音質みたい)-125として出ていた音源らしい。後に同じく海賊盤CD-RレーベルのGreat Artistsより59番と共に4枚組(GA 4-4)で発売されるというメールが「悪魔の店主」から入った。この3番、そしてそれ以上に当時はまだ持っていなかった86年9番が欲しかったけれども、5番が重複する(既にAUDSE 523/4を所有)ため見送った。今回ネットオークションで晴れて単発の当盤を入手することができた。(1000円プラス諸経費なので悪くない買い物だった。)
 まずトラックタイムを見て目を疑った。どの楽章も87年録音と表記されているEMI正規盤より少しずつ短い。録音時期が遅くなるほどテンポも遅くなるチェリにしては異例である。そこで両盤を聴き比べてみたところ、基本テンポに大きな違いはないが、テンポを大きく落とすところで両盤の差異が出ているように思われた。特に第1楽章のコーダは87年盤が約43秒なのに対して当盤は28秒で約2/3である。「シェエラザード」のDG盤の表記が怪しかったこともあり、私は正規盤であっても録音年月日を完全には信用していないが、やはり海賊の当盤の方が疑わしいと考えるのが妥当だろう。が、情報不足なのでこれ以上は問えない。とりあえずEMI盤を「87年盤」、当盤を「91年盤」として話を進める。
 当盤で特筆すべきは音質の良さである。ヒスノイズ全く無しなのでデジタル放送による音源か? 時に会場ノイズが入るが、何やら楽譜をめくる音にも聞こえる。もしそうなら臨場感抜群ということにもなる。EMI正規盤でも3番の録音については合格点を出していたが、当盤の音質は互角以上である。ここまで書いたところで某巨大掲示板にて「チェリ/ミュンヘンのEMI盤は最初からBR録音だよ」「90年代の音源はミュンヘンフィルの自主録音」というやり取りを見た。つまり80年代はMPOの自主録音よりも音質良好とされるBR録音(バイエルン放送の音源)ということである。これを読んで私は「なら(BRマーク無しEMI盤の鈍い音とは似ても似つかない優秀録音の)当盤の音源はいったい何なの?」と疑問に思った。もっともブルックナーについては、それぞれ87年と88年に録音された3番と4番だけでなく、94年録音の7番もBR録音であることから、90年代であっても放送用に録音されたものが存在するということだ。よって、当盤もとにかく何らかの放送音源であることはたぶん間違いないと思う。(いくら何でも客席の隠し撮りではここまで綺麗には録れないだろう。)
 ここで正規盤との比較に戻るが、残響は当盤の方が少ない。87年盤はオーケストラから離れて録られたため残響を多く拾っているためだと思う。これに対して当盤は繰り返しになるが、生々しさでは完全に上回っている。左右チャンネル、パート間の分離も当盤の方が優れている。例えば第1楽章のクライマックス(12分38秒)前後のティンパニの壮絶な打撃。(これと比べたら87年盤では遠くから響いてくる感じで音もこもっている。)12分44秒でさらに一段大きくなるのがハッキリ聞き取れる。ここは寒気がした。ヴァントNDR盤と同じく、テンポをいじったり楽器を強奏させたりすることなく、「構成力」だけで巨大なピークを造り上げているのが見事。「決定盤」に肉薄するようなディスクに初めて出会った。
 やはり音質の違いが大きいこともあり、当盤の方が荒々しさを感じる。これに対して、遅い部分をしみじみと演奏している87年盤の方は曲の美しさを極めようとしたもので、5789番のEMI盤での境地に近いと感じる。第1段落に書いたことに戻ってしまうが、やはり録音の前後関係に疑いを挟みたくなる。あるいはこの時期のチェリが特別に気力充実していたのだろうか? 何にせよ、当盤を聴いて3番正規盤の良さも再認識することができた。だから、入手の容易なそちらをとりあえず手元に置いておけば十分だと思う。ただし、両盤をほぼ同価格で入手できるチャンスに巡り会ったとしたら、当盤の方をぼくはとる。
 これで(チェリが録音を残した3番以降では)「90年代」の録音を所有していないのは4番だけとなった。その4番だが、93年に終楽章だけで30分、トータル86分というとんでもない演奏を行っており、その録音がやはり海賊盤CD-Rとして出ているようである。宣伝文には「深山幽谷的ブルックナー」とあり興味を惹かない訳ではないが、来日公演(大阪)での客席隠し撮り(膝上)らしく音質も「そこそこ」ということなので、万一正規音源が発掘でもされない限り手は出さないと思う。

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