交響曲第5番変ロ長調
レオン・ボトスタイン指揮ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
98/01
TELARC CD-80509

 まず指揮者名だが、今もって正しい発音は判らない。ただし、"stein"という語尾が付いているからには「〜スタイン」あるいは「〜シュタイン」と読むべきと私は考える。たぶん米合衆国人だから前者だろう。"Bots"と"tein"という区切り方はぼくは採らない。実際のところ、google検索では「ボトスタイン」(約108件)>「ボッツタイン」(約71件)となっている。ついでながら第1音節を少し伸ばしたい気もするが、「ボートスタイン」では「ボーッとしたい」みたいに聞こえて何となくヘンである。(実際、検索結果も一桁少ない。)また「ボツスタイン」や「ボッツスタイン」では没にされそうな感じでさらにヤだし、それ以前にsを二度読みしているから却下。何にしたところで語感があんまりよろしくないことには変わりないが・・・・なので本題に移る。
 クナ&VPO盤ページ終わりに書いているように以前から存在は知っており、「最新デジタル録音による改訂版演奏」として気になっていた1枚。(とはいえ、よく考えたらクナのスタジオ盤もステレオ録音だから、むしろ良好音質で聴いてみたいと私が思うべきなのは現在のところモノラルしか存在しない4番と9番かもしれない。ちなみに前者のフェドセーエフ盤は微弱ながらもステレオという話だが分離悪すぎ&音質最悪である。)Amazon.comのUsed Musicにて新品が安く売られていたが、昨年秋からメールのやり取りをするようになった旧知のKさん(横浜でなく長野の方)が「思わず再生装置を叩き壊したくなる演奏」と書いていたので踏ん切りが付いた。(本体$7.00+送料$5.49=$12.49也。これまたどーでもいいことだが、ジャケットが何となくNAXOSの「日本作曲家選輯」シリーズっぽい。)
 第1楽章冒頭から既に異常である。低弦ピチカートによる軽快な滑り出しは、あたかも遠足に出かけたばかりのウキウキ状態を思わせる。(「田園」交響曲じゃないんだぞ!)同楽章終盤では、既にテンポが十分速いにもかかわらずコーダ(15分57秒〜)でいきなりトップギヤ(マタチッチ&チェコ・フィル盤に匹敵)に入れたので呆気にとられてしまった。終楽章も15分20秒過ぎから足を速め、やはりピクニック気取りの(1日中歩き通したはずなのに全く疲労感がない、みたいな)ルンルンコーダで締め括っている。金管咆吼や打楽器炸裂にも節度があり決してドンチャン騒ぎにはならない。あくまでお上品にまとめている。
 ここで某掲示板のブル5スレ(過去ログ)からこんなのを見つけてきた。

 テンポはクナの方がスコアに近いような。
 テンポ設定に関して言えば、原典版と極端には違わないと思われ。
 (主題毎のテンポの切り替えとか、フレーズ中やフレーズ間での伸縮
  はある。accel.→a tempoとか。)
 さらに、クナはむしろスコアの指示よりテンポの振幅を小さくして、
 結果的にin tempoに落ち着いている印象。

 一方、ボトスタインは指示のないところでもテンポを変化させたり、
 個々の指示を強調して、テンポの振幅を大きくしている印象。
 録音の新しさも手伝って、改訂版のキワモノ的な性格を
 はっきり打ち出した演奏だと思う。

この分析は見事であるが、テンポに加えて音量差によるメリハリ攻撃も大胆に行っているように私は感じた。それはテラークの優秀録音だからこそ明瞭に聴き取れる。それゆえ、上記カキコの最終部分「キワモノ的な性格をはっきり打ち出した」は確かにその通りと思うが、実際に受けるインパクトはクナ盤よりもはるかに小さいとしか思えなかった。あちらは「腐ってもブル」(失礼)で、馬鈴薯(Solanum tuberosum L. cv. 男爵)面作曲家のゴツゴツ感はそのままに例の奇天烈改竄が盛り込まれているから、スタジオ盤、ライヴ盤共にとにかくグロテスクという印象を受ける。一方、響きが洗練されている当盤は、変態は変態でも「明るくて健康的な変態」といったところか。「こんなの変態の本道からは外れている」と怒りを覚える人だっているだろう。(どこに?)何にせよ重量感不足が仇となって、どうにも中途半端という感じは否めない。そういえば、ある通販サイトでは「アメリカきっての硬派」と紹介されていたが、「硬派がわざわざこんな版使うかぁ?」と言いたくなってしまった。(シャルク盤採用の正当性について指揮者および解説者がブックレットにゴチャゴチャ書いとったが・・・・)それは認めるとしても、ソフトを通り越して軟弱に近い演奏だから「やるんなら徹底してやっとくれ」と言いたくなってくる。この点では原典盤に自己流アレンジも加えるというやり方で "Yes, this is my way."(我が道を行く)を貫いたロジェヴェンにも完全に負けている。どうも「硬派の変態」というのは成立しないようだ。
 ということで、クナ盤は先述したように曲がりなりにも「ブルックナーらしさ」があったが、当盤には痕跡すら残っていない。この言い回しは以前どこかで使った記憶があったので捜してみたら、ヴァントのシャルク盤に対するコメントそのままだった。許光俊のインタビューにて、彼はさらに「まるでメンデルスゾーンとワーグナーをごちゃまぜにしたような響きがする」と述べていた。クナ盤の聴後にはもう一つピンと来なかったが、私は当盤を聴いてようやく朧気ながらもイメージできた。シンバルに限らず打楽器が活躍する部分の輝かしさはワーグナー風だが、大音量でも決して響きが重々しくならないのはまさしくメンデルスゾーンの特徴である。先に触れた両端楽章ラストのスタスタなど、まるで「イタリア」交響曲を聴いているかのような錯覚にとらわれる。(自分だけか? 聴いたことないが「静かな海と楽しい航海」もきっとこんな感じだろう。)おそらくヴァントは事あるごとに改訂版を貶しまくっていたに違いないから、それを何かで読んだ隠れファンの「硬派」がカチンときて、「んならワシが究極のブレンドを聞かせたろやないか」と発憤したのかもしれない。妄想ついでだが、そうなると「メンデルスゾーン専用指揮者」(鈴木淳史の命名)ことマズアならもっと上手く出来るのではないかという気がしてきた。いつか演ってくんないかな?

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