交響曲第8番ハ短調
カール・ベーム指揮ケルン放送交響楽団
74/09/27
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 ネットの広告ページを見ても買うつもりはなかったのだが、amazon.comで新品がUS$11ほどで売られているのを見たため、andanteのVPOブルックナー4枚組と一緒に注文してしまった(円高だったし) 。この2枚組には79年のSKDとの「グレイト」が収録されているが、宇野功芳は「名演奏のクラシック」のベームの項にて、そのライヴ盤(初発のDG盤)を「ベームが若返り、まるで全盛期のような指揮ぶりで成功した例」として挙げていたので少々気にはなっていた。既所有のヴァント&BPO盤がもう一つ気に入ってなかったこともあり、先述したように安価だったため購入に踏み切った。そして、この勢いのある「グレイト」には私も大いに満足できた。それゆえ、ブル8が全くのハズレだったとしても既に元は取れているのであるが、実際に聴いてどうだったか?
 第1、第2楽章ともVPO盤よりそれぞれ1分以上短い。が、印象はさほど変わらない。やっぱりVPO盤はスカスカだったんだ。変わらないとは言ったものの、1楽章のカタストロフの前などは結構速い。スケルツォも推進力がある。やはり鳴っているはずの金管がちゃんと聞こえてくると、ストレスは生じず演奏に集中できる。4番録音の翌年の演奏だけに指揮者もまだ気力充実していたのであろう。燃焼度が凄い。76年の「ハリボテ演奏」とは別人の演奏にすら聞こえる。オーケストラの腕も確かで、指揮者のテンポ揺さぶりにもしっかり応えている。こういう劇的スタイルによる8番が畢竟は私の好みではない(彼の8番に共通しているが、終楽章ラストの「ミレド」をアッサリ流してしまうのも気に入らない)というのが難点だが、名演であることは認めざるを得ない。
 チューリッヒ盤のページでも宇野功芳のベーム評(「名演奏のクラシック」)に触れているが、その中の(「ベートーヴェンのような演奏」はともかくとして)「凝縮しすぎてひびきが拡がらず」は、当盤の特徴を言い当てているようにも思える。もっとも私には非常に密度の高い演奏というように肯定的に感じられたが。「干物」などとんでもない!(とはいえ、宇野もさすがにこの熱い演奏をそんな風には言わないだろう。)ご存知のように、ケルン放送響はヴァントの指揮でブルックナーとシューベルトの交響曲全集録音を行ったオーケストラであるが、彼の最初のブル全集から感じられた特徴がまさに(時に窮屈すぎると感じたほどの)それであった。つまり、このオケの「凝縮した響き」はヴァントの徹底したリハーサルで鍛えられる以前からの特徴ではないかと思った次第である。(それ以前のディスクを持っていないので確かめようがない。クナの7番でも買うか?)
 ところで、当盤収録のベームによるブル8が演奏された74年は、ヴァントの全集第1弾となる5番が録音された年でもある。両者はケルンで顔を合わせたのだろうか? そうだったとしたら、あるいはこんな会話が交わされたのだろうか?

ベーム :君は今年からこの地でレコーディングを始めるそうだね。
     ここの放送オーケストラの腕はどうかね?
ヴァント:まだまだですが、きっとめざましく上達しますよ。
     私の厳しいリハーサルにも決して音を上げませんからね。
     そういえばマエストロはウィーンから来られたそうですね。
     私は以前ちょっとしたいざこざがあって以来、
     もう長いことあちらには足を踏み入れていませんが、
     最近あそこのオーケストラはいかがですか?
ベーム : ウィーンの連中とはとてもうまくやってるよ。
     何せ私はトシだから長時間のリハーサルなど真っ平御免。
     それでサッサと切り上げるものだからみんな大喜びだよ。
ヴァント:(呆れつつ)何か私のことは言ってませんでしたか?
ベーム :そういえば以前「ヴァント」と君の名を口に出したら
     急にコンサート・マスターの顔が歪んだなあ。
     「あんな口うるさい指揮者は後にも先にも奴だけだ」ってさ。
 両者 :ワッーハッハッハッハッハ・・・・・・・・・・・・
(無邪気に笑うベーム。ヴァントはお追従笑いをするが目は笑ってない。)

我ながら出来は今一つどころか三つぐらいも良くないと思う。某掲示板の某スレで会話型の傑作投稿を連発している謎の人物のようなセンスが欲しいところである。しかし誰なんやあれ?

8番のページ   ベームのページ