交響曲第8番ハ短調
カール・ベーム指揮バイエルン放送交響楽団
71/10/21〜22
IMD KB-405

 ベームとバイエルン放送響の共演といえば、かなり前に「紫」で入手した7番の出来には大変満足していた。当然ながら今年(2007年)8月にAuditeからリリースされた正規盤(AU-95494)は無視。続いて同レーベルが8番(AU-95495)も出すと知った私だが、既にベームの8番は3種類(ケルン、チューリッヒ、ウィーン)を所持しているため、こちらも当初は見送りの方針だった。が、「KB-405という海賊盤(?)と同一音源だとしたら史上最速のブル8ですね」というユーザーレビュー(特に後の方の四字熟語)を見て聴いてみたくなり予約注文を入れた。ところが注文状況がいつの間にか「ご予約受付」から「再入荷手配中」に変わり、販売ページも「出荷目安: 廃盤」「こちらの商品は廃盤の為、申し訳ございませんがご注文いただけません。(現在入手困難)」となっていた。編集ミスや修復不能な傷でも発覚したのだろうか? 何にせよ、こういう場合は大抵ダメ(お蔵入り)なのだが、気長に待ってみることにした。
 が、ある日その「海賊盤(?)」をヤフオクで見つけたので、しびれを切らしていた私は発作的に入札した。「石丸企画/入手困難貴重盤」とのことで希望落札価格が2500円に設定されており、私も少しは上積みしていたはずだが(いくらか憶えていない)、競争相手は結局現れず開始価格1000円のままで終了。おそらく出品者は当てが外れたことだろう(註)が、ちゃんと約束を守り連絡をくれた。(註:たまに出品を取り消すという怪しからん輩もおり、某掲示板では非難の的となる。もちろん最低落札価格を設定しておくべきである。)もちろん私は落札通知が入ると同時に先の注文を取り消した。(その結果、マルチバイ割引の条件を満たさなくなってしまったが、まさか追加で請求が来ることはあるまいな?)
 ところで上の「石丸企画」であるが、検索すると(テープ起こしや字幕挿入などを業務とする)そういう名前の会社が出てくるものの、CD販売をも手がけているようには思われなかった。そうなると、やはり青裏のメッカとして有名な石丸電気の企画(IMDはIshiMaruDenkiの略)と考えても良いのだろうか? とにかく届いた品は確かに海賊っぽい。ケースに入っていたのはブックレットではなく2つ折りの紙、もちろん解説の類は一切なし。それどころか、その紙にもケース裏にも制作者の住所すら記載されていなかった。(ただし、ジャケットに "Karl Boehn Collection V" とあるから、以前バラでブル3のみ中古屋で買った「ブロムシュテット&ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管ボックス」 (Querstandによる5枚組) と同じ、つまりセットを収めるための紙箱にはそれなりの情報が表示されているという可能性はある。確かめようがないが・・・・)
 ここで先に触れた「史上最速」に戻る。ディスクのトータルタイムは73分55秒ながら、楽章間のインターバルや終演後の大拍手もタップリ収められているため、正味の演奏時間はそれよりもかなり短い。以下、件の投稿者が紹介していた実測値と当盤のトラックタイム(括弧書き)を示しておく:第1楽章,12:48(13:30);第2楽章,12:39(13:19);第3楽章,24:27(25:24);第4楽章,19:45(21:45);TOTAL,69:39(73:55).(ちなみにJ. F. Berky氏のディスコグラフィによると、この演奏は他にもOriginalsやRe! Discoverレーベルによる青裏が出ている模様だが、何れもトータル72分弱の収録であることから、同様にロスタイム込みであると思われる。)確かに8番で70分未満の演奏というのはそうザラにある演奏ではない。再度Berky氏のサイトを参考にさせてもらうと、シューリヒト&VPOの63年ライヴ(Altus)がトータル70分45秒、クナ&バイエルン国立管盤(55年)が同70分14秒だった。それらをも凌駕している。ただし前者は未聴であるため、正味の時間同士を比較すれば当盤より短いという可能性は否定できない。ということで「史上最速」の真偽については審議中(保留)とするが、その有力候補であることは間違いないだろう。(ついでながら、スタインバーグ&ボストン響盤の61分30秒には仰天したが、おそらくは指揮者独自の版使用によってメッタ切りにされているだろうから、あくまで「追い風参考記録」に留めておくべきだろう。また、快速王レーグナーは12:34→13:19と前半こそ好調だが、以後26:21→22:45と失速し、結局75分01秒という彼としては平凡な記録に終わっている。)
 やれやれ、演奏時間だけでこんなに字数を費やしてしまった。が、兎にも角にもそれを判断材料に当盤が「爆演」に仕上がっているものと想像しつつ、実際に聴いてみた。まず音が良い。分離明瞭のステレオ録音でヒスノイズも皆無に近い。どうやら膝録りやエアチェックではなさそうだが、そうなると一体誰がどこから持って来たのだろう? 続いて感じたのはやはり勢いである。第1楽章の中間部ではピーク(7分08秒)に向けて脱兎の如く突入するが、これぐらいスピード感があると直後のイラチ加速もそんなに気には触らない。(この楽章の終わりはちょっとぶっきらぼう過ぎるような気もするが・・・・)そして精度の高さ。どの楽器も鳴りっぷりが非常に良いが、派手に立ち回っても合わせが雑にならないのは素晴らしい。時折綻びも聞かれた(指揮者の乱心に起因?)ケルン盤やチューリッヒ盤よりも合奏力は断然上である。(スカスカ&ユルユルだったVPO盤とは比べるまでもない。)ただし、先の「爆演」予想はちょっと外れた。猛烈に速いのは事実だが、「無茶しなはんな」と言いたくなるようなテンポいじりは聞かれなかったし、ラストの「ミレド」も雪崩込むような感じでは決してなかった。つまり、ここでのベームは最後まで端正さを崩していないといえるから、ひとまず「大熱演」としておこう。観客のブラヴォー連発にも納得の見事な出来映えである。
 ということで、ベームの8番としては当盤が充実度・完成度とも他を圧しているといえる。(これがあれば少なくとも後のライヴ2種は不要のような気がする。一方、VPO盤は高エントロピーかつ弛緩型の演奏を好む人には歓迎されるかもしれない。)それどころか「快速系」としてはベストの座を争うようにも思えてきた。私はシミジミした所がもうちょっと欲しいと思うゆえ、それなりにしか評価できないけれど。

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