交響曲第7番ホ長調
カール・ベーム指揮バイエルン放送交響楽団
77/04/05
METEOR MCD-007

 「紫(METEOR)のブル7」といえばチェリ&MPO盤(MCD-039/040)がずっと前から欲しくてたまらないのだが、ネットオークションでは連戦連敗。最近は出品されているのも見かけない。その代わりという訳でもないが、2005年2月にヤフオクにて当盤をゲット(出品価格が1500円と前に見かけた時よりも安かったため入札→無競争落札)した。それまでバイエルン放送響による7番のディスクを1枚も持っていなかったということも入手に踏み切った動機の1つである。(ORFEOレーベルのC・デイヴィス盤は中間楽章をひっくり返していると聞いて腰が引けてしまったが・・・・・)3番ではどの指揮者が振っても常に高水準の演奏を聴かせてくれた実力オケであるが、果たしてこの曲ではどうなのか? 興味津々だった。某掲示板をはじめ、ネット評はかなりいい線を行っていたので期待して聴いたが、それを大いに上回る出来に大満足した。
 まず音質はかなり良い。同レーベルではマタチッチの3番がヒスまみれだったので、ある程度は覚悟していたのだが・・・・・ヘッドフォンで相当に音量を上げてようやく感じるレベルなので鑑賞には問題なし。パート、左右の分離は抜群に良い。次に演奏であるが、こちらも素晴らしかった。指揮者がテンポを動かしたとしても、それにピッタリ付いていくのでスキがない。(スカスカ感がない。)それどころか、リズムがほんの少し(私には許容範囲内)前のめりになる所ではオケが指揮者を引っ張っている感があり、非常に積極的な演奏と聞こえる。いや、時にベームの解釈を先取りするかのような不穏な雰囲気すら漂っているので、むしろ対決姿勢というべきかもしれない。要は老指揮者を本気で相手にしているのだ。この辺は「ヨボヨボ爺さんの遅いテンポは俺達でなきゃ支えられない」などと半ば嘲り口調で語るような楽員がいる名門オケとは違う。
 例によって第1楽章の5分少し前で加速はするものの当盤では控え目で、コーダのテンポ設定も適切。着地も満点。6分04秒からの「大根役者」だけが減点対象だ。アダージョはさらに文句の付けようがない。冒頭の弦を控え目にしてワグナーチューバを浮き立たせているのは実に見事で、思わず溜息が出てしまった。(以後も同様の解釈が何度も出てくる。)0分33秒から主役を引き継ぐ弦にも節度がある。(VPOは力任せに弾いていた感があり、時にそれが汚く聞こえてしまうのは既にあちこちに書いた通りである。)以下の進行はほとんどインテンポなのだが、響きが極めて高密度であるため全然ダレない。やはりこのオケの地力は凄い。弛緩防止策の必要がないのだ。かといって、BPOほどは重苦しくはないため美しさが全開となっている。余談だが、先日地元で評判の高いラーメン屋(チェーン店)にて「こってりラーメン」というのを食べた。今流行らしき豚の背脂がタップリ入っており、確かに見かけ上は「こってり」だが、くどさがないどころかサッパリしており、脂の旨味を十二分に堪能することができた。それでついついスープを全部飲んでしまったけれども、後で腹もたれするようなこともなかった。(TVレポーターのコメントに偽りはなかった。)何となくそれに近い感じである。「ジャーン」以降のクライマックスの力加減も絶妙で、それまでの重量感とのバランスがちゃんと取れている。この楽章はトップクラスだ。それ以上に完成度の高いのがスケルツォ。火の玉のように燃え上がるシューリヒトの快速スタイルも好きだが、当盤はやや遅めのテンポながら、厚みのある響きのお陰で主部もトリオも非常に中身が濃い。あらゆる演奏中で1位に推したいほどだ。終楽章は逆に少々速めながら、ケレンなし(ブロック内でのテンポ変更は使わない)の堂々演奏で締め括る。アッパレである。
 ということで、初登場ながら3位にランクインさせることにした。安定感抜群のヴァント&NDR盤よりも意欲的かつスリリングな当盤を買ったのである。トップスリーからヴァントを転落させるなど私にとって甚だ不本意ではあるが、これだけの演奏を聴かされてはやむを得まい。

追記
 当ページ執筆直後に某掲示板でこんな投稿を見つけた。

 岩城氏の「フィルハーモニーの風景」に、VPO楽員の
 「ベームなんて、俺たちとやらなきゃただの耄碌爺さんだよ」
 なんて発言が紹介されてたけど、一昔前の彼らのプライドは
 相当のモノだったみたいだね。
 指揮者より自分らを優先するようなところはあったみたい。

「そうだったのか」(実は本文に記した侮蔑発言をどこで見たのか忘れてた)と膝を打ち、さっそく本棚から「フィルハーモニーの風景」を取り出して開いてみた。楽員の台詞は正確には以下の通りである。(著者がどこまで意訳&脚色したのかは不明だが・・・・)

「あのジイさんの棒の通りに弾いたらエライコトになるんだぜ。
 もうすっかりモウロクしているからテンポは延び放題だし、
 手がブルブル震えっぱなしで、何がなんだかわからないんだ。
 でもとにかくエライ指揮者だし、いや、偉大な人だったんだから、
 お客さんの期待と感動に水を差さないように、おれたちがカバー
 してやってるのさ。苦労するよ。ショウバイ、ショウバイ」

 ところで、この本にはその数年前のエピソードも紹介されている。同オケの幹部がベーム&バイエルン国立管による「ドン・ジョヴァンニ」を聴くためにミュンヘンに行った。岩城が感想を訊くと「全然駄目だった」「歳をとったベームの間延びしたテンポに、忠実について弾いていただけだった」「ミュンヘンのようでは、ベームはただの老人指揮者に過ぎない」などと自慢げに答えたのだという。いやはや、プライド(だけ?)は本当に世界一だ。が、当盤とVPO盤とを聴き比べた私にはそういった台詞が全て空虚に響く。せっかくバイエルンまで行ったのなら当地の放送オケの真摯な姿勢を学んでくれば良かったのに、とも言いたくなる。

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