交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」
カール・ベーム指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
73/11/19
DECCA POCL-6002

 当盤も3年前に録音された3番と同様、「レコード・アカデミー賞」を授与されている。ただし、この4番は私が散々イチャモンを付けた3番とは異なり、それにも十分納得のゆく名演だと思う。細かいことを気にしない指揮者とオーケストラの芸風が曲想と見事なまでに合致し、ノビノビと演奏した結果である。この4番は3番ほど緻密さが要求されないように思うし、合奏も後年の(伸びたラーメンみたいな)ハイティンク盤ほど甘くはなっていない。
 鈴木淳史が「クラシック名盤ほめ殺し」で、当盤の「ホルン・パートだけが異常に突出している」という点を執拗に攻撃しているが、そんなものは(著者の狙い通り)「ワッハッハ」と笑い飛ばしておけば良いだろう。私は全く気にならなかった。彼の本を読んで聴き直し、「そういえばちょっと大きいかな」と思った程度である。(それを言うならブラスの突出だって相当なものである。「だけ」は明らかにおかしい。)そんなのをいちいち気にしても仕方がない。マイクを立てる位置によって特定の楽器の音を多く拾ってしまうということは、ある程度やむを得ないことではなかろうか。実際のところ「ティンパニ協奏曲」状態になっているブルックナーのCDは結構ある。ディスクというものは所詮、生演奏とは別物の「音の缶詰」なのだ。それをちゃんと解っている人は安心して当盤を聴けばよい。イカ缶を開けたら足の部分がちょっと多目に入っていたからといって、誰も「この缶詰は不自然だ」などと文句を付けたりしないだろうに。
 平林直哉によると、DECCA LEGENDS シリーズは過度のノイズ除去によって音が丸いということだが(「クラシック、マジでやばい話」)、旧マスタリングによるCDを聴いたことがない私には何ともいえない。が、当盤の音質に不満はない。このシリーズとARTマスタリングは一部に例外はあっても私の許容範囲である。許し難いのが「歪みが2088倍すさまじい」マスタリング、およびワルターのSMBシリーズ(DSDはギリギリセーフ)である。たぶんこれらを使ったディスクのページにて触れるだろう。

追記
 このページ執筆中にメータ&VPOによる9番をネットオークション経由で入手した。これもホルンの音がデカイ。当盤もメータ盤もDECCAが企画したウィーン・フィル初のブルックナー全集録音(ただし複数指揮者を起用した変則的全集)の一環である。そこで、既所有のショルティ8番(7番とともに全集を構成)も取り出して聴いたところ、やはり同じだった。(1楽章の225小節あたりの盛り上がりでは、向かって右スピーカーから凄まじい勢いでホルンの音が飛び込んでくる。)つまり、このホルンの突出は全集録音に共通して認められる現象であり、当時のDECCAの録音の特徴に過ぎなかったわけである。鈴木が「ほめ殺し」で悪魔の台詞として書いていた「晩年のベームのチンタラぶりが万人に受けないと判断した録音スタッフ」の仕業というのは何ら根拠がないということになる。(鈴木は当盤以外にその全集のディスクは聴いていなかったのだろうか? それとも、私が書いたこともちゃんと知りながらあんなことを書いたのだろうか? 無知、それとも悪意?)
 ここで遅播きながら気が付いたのだが、「ほめ殺し」で使われている対話形式というのはある意味で非常に賢いやり方である。名誉毀損に該当するような誹謗中傷をAに語らせても、それをBに(否定しないまでも)「必ずしも肯定はしない」という口調で答えさせておけば、とりあえず責任の所在は曖昧になり、真の発言者(書き手)は安穏としていられるという訳である。こりゃ便利だ。早速使おう。

A:結局のところ、鈴木淳史など音楽評論家としてはいてもいなくてもいい存在だよね。
B:それには同意しかねる。彼が定期的に供給してくれる突っ込みどころ満載のネタが、
  某掲示板や当サイトにどれだけ彩りを添えているか。実に貴重な存在じゃないか!

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