交響曲第3番ニ短調「ワーグナー」
ヘルベルト・ブロムシュテット指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
98/09/03〜4
Querstand VKJK 0507

 目次ページに書いたように初稿演奏と知ったため1600円と大して安くないにもかかわらず買ってしまった。出張から戻ってケースを空けてみたら、中にブックレットはなく海賊盤と同じく紙切れだけだったのでガッカリした。とはいえ、当盤がネット通販では1万近くする5枚組ボックスのバラ売りであると後に判ってみれば、演奏さえよければ決して悪くない買い物だったと納得もいく。実際に聴いてみた。(←もうこればっか。)
 トータル62分台(ラジカセでは「63:23」と表示されるものの最後の50秒ほどは拍手)は初稿使用盤としてはもちろん短時間演奏の部類に入る(冗談音楽のようなノリントン盤は別格)。例によって大雑把ではあるが「ノヴァーク3稿換算タイム」を性懲りもなく計算してみた。

 第1楽章:22:45 × 651/746 = 19:51
 第2楽章:17:52 × 222/278 = 14:16
 第3楽章: 6:41 × 276/268 = 6:53
 第4楽章:15:12 × 495/764 = 9:51
 トータルタイム:50分51秒

これを見て反射的に思い出すのは、マゼールやテンシュテットのように脇目もふらずまっしぐらに突き進むという演奏である。それらの現物が手元にないため、Berky氏のサイト(URLが変わったので注意)掲載のディスコグラフィを見に行ったら、テンシュテットの正規盤(Profil)は「52:10 - 19:42 14:41 6:51 10:55」とあった。大幅カットの施された終楽章を除いて結構近い。そうなると当盤も火の玉のような熱血スタイルではないかと予想できるが、確かにそうなっていた。第1楽章序奏から既にメラメラと燃え上がっている。これなら第1主題が登場するまでの間に待ちくたびれたりしないで済む。(ここでも引き合いに出して悪いが、インバル盤は単に早いからではなく適当に流していたから印象サッパリだったのである。)この高カロリー&ハイテンションを最後まで維持しているのだから大したものだ。前年に還暦を迎えていたはずのブロムシュテットだが、齢とともにますます気力充実していたのだろうか? と言いたくなるほどに完成度も燃焼度も高い。・・・・と手抜き批評で済ませておく。以下は脱線。
 ブロムシュテットは今年2月6日のN響第1561回定期演奏会でもやはり初稿を使った。解釈については特に当盤と変わっているという印象はなかったし、オケの精度に不満を述べたネット評は数多く目にしたが、指揮者に対しては賞賛の声が多かった。ところで演奏終了後の拍手は最初パラパラで、かなり異様な雰囲気が暫くの間漂った。その後一旦静まってから盛大になった。いわゆる「フライング拍手」に対してFM生中継のゲストだった奥田佳道は苦言を呈し、翌日の某掲示板でも非難囂々だった。私は最後の音が消えるのを確認して手を叩き始めたと聞こえたから、そこまで断罪するのは酷なようにも思ったのだが、どうやら指揮者はまだ腕を下ろしていなかったらしい。(後日NHK-BSで確認したらその通りだった。)とはいえ、通常ならタイミングが少々速すぎたにせよ皆がすぐさま同調し、そのままの勢いで盛り上がってしまったのではなかろうか? やはり普段聞き慣れない(多くにとっては初耳だったかもしれない)版による演奏、しかも物足りなさを覚えるほど唐突なエンディングゆえ、「これで本当に終わりなの?」と疑問を抱いた聴衆が(チャイ5の終楽章と同様に)雰囲気ぶち壊しになることを恐れ、拍手を躊躇したことが間の悪さの原因と私は考える。むしろフライング野郎は初稿をよく知っていた確信犯(←どっちの意味にせよ)だったという気がする。彼は誰にも追従してもらえなかったという孤独感に打ちひしがれ、トボトボと帰路を歩んだに違いない。

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