交響曲第6番イ長調
ダニエル・バレンボイム指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
94/05
elatus 2564-60129-2

 ベルリン・フィルにとっては、というより私にとって曰く因縁付き(ヴァントの転倒事故によって2002年2月に予定されていた演奏・録音がキャンセルされてしまった)の曲である。3番もそうであるが、カラヤン盤以降しばらく録音がなかったこれらの曲でBPOがどのような演奏を聴かせてくれるか気になっていたため、本来購入予定に入れていなかった当盤を急遽入手することになった。
 どこかで好意的なネット評を読んだ記憶があるが、検索しても見つからなかったので、あるいは3番とゴッチャになっているのかもしれない。実は私の印象はその3番と近い。第1楽章は冒頭から迫力十分。細かいところが気にならない聴き手にとっては決して悪い演奏とは感じないだろう。テンポはコロコロ変わるが、この曲の場合、凡庸な演奏だととかく退屈しがちな私だけに決して不満ではない。ところが、3番同様に詰めの甘さがどうしても気になってしまうのだ。多少のアンサンブルの乱れなら、それなりのスケール感は出ている演奏なので我慢できる。しかし、序奏(0分54秒まで)以後しばらく聴くだけでも、とてもそんなレベルではないことが判る。ティンパニの「ダンダダダダ」と弦の「ジャッジャジャジャジャ」のリズムが合ってない。(後者が遅れている。ショルティ盤と聴き比べたら誰だって気が付くだろう。)金管の吹く旋律は流しているだけと聞こえるほど締まりがないし、1分14秒では明らかなフライングだ。これ以上指摘してもキリがないので止めておく。あの頑固指揮者によってギチギチに締め上げられたアンサンブルでこの曲を聴きたかったという思いがますます強くなった。
 「奏者のやりたい放題」大会の様相を呈している第2楽章はユルユル演奏が妙な魅力となっている。荒々しい第3楽章は4楽章中屈指の出来である。ここから問題視したいのが終楽章に対する指揮者の見解である。
 8番ページでも採り上げたバレンボイムのインタビューだが、6番についてはこんなことを述べている。

 それ(註:第7番を指す)に対して第6番は、
 最終楽章に、のちのマーラーを思わせる神経質さがある。
 この神経のエネルギー、リズムのエネルギーは、
 伝統的にブルックナー作品にあると言われてきた
 神の像とは全く相容れないものです。

 私はこの曲からマーラー的な要素など一度も感じ取ったことがなかったので「ほほう」と興味深く思った。しかし、改めてジックリ聴いてみても13分半という演奏時間が示しているようにテンポがやや速めであること以外、他の演奏と比べても特に神経質という感じはしなかった。テンポを小刻みに動かすのは他にも数え切れぬほど多くの指揮者が行っていることであるし・・・・・リズムと旋律を担当する楽器群が相も変わらずズレていることが私の神経に障っただけである。むしろ、「神経質というんなら、お前は第1楽章の冒頭からは何も感じへんかったのか?」と指揮者を問い詰めたい気分になった。弦のトレモロによる通常の「ブルックナー開始」と比べると、「チャッチャチャチャチャ、チャッチャチャチャチャ・・・・」という刻みによる6番の開始には安定感がまるでない。その落ち着きのなさは少なくとも序奏が終わるまで続く。ここを聴いて以前からもの凄く神経質な印象を受けてきた私には、作曲者がわざわざこういう始め方をしたことの意を汲み取って、やるのであれば最初から最後まで神経質に演奏する以外ないように思えてならない。(私はあんまり好まないがヴァントのように。逆にショルティや朝比奈のようにそんなものは無視して豪快演奏に徹する手もあるだろう。)いくら神経質演奏を心懸けたところで中途半端で終わるのも当然である。また、「リズムのエネルギー」にしたところで別に終楽章だけのものでもあるまい。(その前の「神経のエネルギー」は意味が解らないが、宇宙の「インフレーション」の原動力となった「真空のエネルギー」を捩ったものだろうか? 冷静に考えれば日本語でしか成立しない語呂合わせゆえ絶対にありえないが・・・・)ようやく終楽章になってそれらに思いが至るというのはいくら何でも遅すぎであり、私にはよっぽど神経が鈍いとしか考えられない。暴走に歯止めがかからなくなる前にひとまず改段落することにする。
 とにかく、8番ページでも述べたようにバレンボイムのブルックナーの交響曲に対する見解には首を傾げざるを得ないものがいくらでも出てくる。(一例が「構造建築よりも考古学上の探検に譬える方がいいのでは」という発言である。)要は勘違いしたまま演奏・録音に臨んだのが敗因ということになるのかもしれない。これがシカゴ響とだったら強烈なトンデモ演奏を満喫できたのかもしれないと思うと残念である。(結局ここでもこういう締め方をする以外なかった。)

6番のページ   バレンボイムのページ