交響曲第6番イ長調
朝比奈隆指揮大阪フィルハーモニー交響楽団
94/04/01〜04
Pony Canyon PCCL-00318

 第1楽章冒頭、第1主題提示の荒々しさに思わず拍手を送りたくなった。リズムがキッチリし過ぎて窮屈に感じてしまう演奏が多いけれども、地味なこの曲では精度に汲々とするあまり、スケールが小さくなってしまっては何にもならないのだ。開放的ということでは、あのショルティ&CSO盤とも堂々と五分に渡り合っている。特に主題をサポートするティンパニの気合いの入り方が何とも素晴らしい。ショルティ盤は「タンタタタタ」という明るい音色で洗練されたリズム感が前面に出ていたが、当盤は「バンババババ」という爆撃のような野性味ある響きでかなり趣が異なる。盆踊りの矢倉太鼓が目に浮かんだ。実際に舞台上に矢倉を組んでハッピ&鉢巻き姿の奏者が叩いたら視覚的にも迫力満点だったに違いない。あるいは奏者を複数配置したり、本当に和太鼓を使うという手もこの曲ならアリかもしれない。鬼太鼓座との共演など想像しただけでワクワクする話ではないか!
 などと少々悪乗りしておフザケを書いてしまったが、決して指揮者をバカにしているのではない。ところで、宇野功芳はヴァントの5番BPO盤の解説中で、彼の8番93年NDR盤を朝比奈の95年大フィル盤と比較し、「無手勝流の朝比奈に対し、もっと細かくデリケートな神経を遣った演奏」として、後は聴く者の好みだと述べていた。(同時に朝比奈を「自然体」とも評していたが、それには異を唱えたい。むしろ、浅岡弘和の分類では「自力型」に属するこの指揮者は、むしろ「不自然体」に近いと思うのだ。)そして私は、その朝比奈のスタイルが(8番以上に)この6番と非常に相性が良いのではないかと考えるのである。ビクター全集収録の84年盤も見事な出来だったが、当盤は精度、スケール感ともそれを大きく上回っている。リズムの強烈な134楽章だけでなく、しっとりしたアダージョも仕上がりは上々だ。ついでに書くと、宇野はヴァント6番95年NDR盤の解説にて「第1主題のフォルティッシモの提示はものすごい巨大さだ」と書いていたが、私は(そのディスク評ページにも書いたように)どうもピンとこなかった。その形容は当盤にこそ相応しいと思う。ともに高齢まで現役を続けた指揮者ながら、私は常日頃ヴァントの方をはるかに高く評価しているのであるが、この曲だけは(不本意であっても)「ヴァント緻密流」(←佐藤康光か?)よりも「朝比奈薪割流」(同姓でも引退した大五郎の方)に軍配を上げたいのである。それもこれもみんなショルティが悪いのだ。
 ちなみに当盤の解説者もやはり宇野だが、この6番は(123番とともに)「苦手のスタジオ録音で切り抜けた」とある。「苦手」というのがよく解らない。このキャニオン全集中では36番が屈指の出来だと私は思っているし、前者は指揮者が「かなわない」などとして嫌っていた曲でもある。どうも本人の好き嫌いと私の考える向き不向きとの間には相当のズレがあるようだ。結局、この人も私にとって謎の多い指揮者ということになるのだろう。

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