交響曲第3番ニ短調「ワーグナー」
朝比奈隆指揮大阪フィルハーモニー交響楽団(94)
93/10/03〜06
Pony Canyon PCCL-00471

 某巨大掲示板のブルックナー関係のスレッドに、朝比奈の演奏に関してこのような書き込みがあった。

 ブル8だと、一般にはN響盤(フォンテック)が
 いちばん整ってると言われてる。

 オケが下手くそなのが嫌なら、大フィル盤は避けて、
 新日フィルとか都響あたりの盤を選んだ方がいいと思う。

 キャニオンの全集は、大フィルにしては良い方だと思うけど、
 敏感な耳を持っている人には厳しいだろうなあ。
 ま、そういう人は朝比奈を聴くこと自体やめた方がいいとは思うけど。

一方、amazon.co.jpのキャニオン全集に対するカスタマーレビューは2件中2件とも最低点に近く、「廉価単発盤の1番と9番のみ買えば十分」というコメントすら出されていた。(ついでながら、当盤についても同サイトの3番バレンボイム&BPO盤のレビューにて触れられていたが、「スケールが大きいものの、アンサンブルがぎくしゃくしリズムが揺れる。録音が優秀なのでお薦めしたいのだが、やっとこさ演奏しているという感じがしてしまう。しかし一生懸命さはどの演奏よりも出ている。いいのか悪いのか、わからなくなる。」というように、せいぜい「努力賞」の扱いだった。)ならば、このキャニオン全集もビクター盤と同じく単一ページで論ずれば十分・・・・とは判断しなかった。どうやら私の耳は「この位のクオリティがあれば鑑賞には堪える」と聞く程度には鈍感なようで、なかなかに優れていると思われた演奏も少なくなかったし、何よりも脱線話を書くスペースが欲しい。よって、個々にディスク評ページを作成することにした。まずは3番から。hmv.co.jpの15%引きセールで買おうとしたのだが、真っ先に品切れになってしまった。その後間もなくamazon.co.jpのマーケットプレイスにて発見し、首尾よくゲットした。
 引き締まった「凝縮型」の演奏にはヴァント&NDR盤、チェリ&SDR盤、カラヤン盤など名盤が少なくないこの曲だが、スケール感がウリの「開放型」で音の良いものとなると意外に少ない。すぐ思い付くのはマタチッチ&フィルハーモニア盤くらいであろうか?(チェリでもMPO盤は正規、海賊とも神秘性が支配する「異色」演奏である。)当盤は「ノヴァーク3稿&改訂版」部門ではトップクラスだと思う。というのも、地味な2稿の場合はアンサンブルの精度を多少は犠牲にしてもスケール感を前面に出しておればそこそこ聴けるけれども、贅肉が取れてスッキリした改訂版を使うのであれば精度こそが極めて重要になるからである。そこのところを朝比奈はちゃんと理解しているようで、ノヴァーク2稿使用の旧盤より明らかに完成度が上回っているのがありがたい。(上の「やっとこさ」はオケの技量ゆえ仕方がないが、指揮者は決して大雑把になってはいないと思う。録り直しのできるスタジオ録音というのもやはり大きいか?)彼が単なる勢いだけの指揮者ではないことを十分にアピールしていると思う。スケルツォ主部終わりの外連ティンパニ(改訂版由来?)は効果満点! 2楽章のみ緩いと思うが、オケを考えたら上出来だろう。
 宇野功芳の6番大フィル94年盤解説によると、朝比奈は「初期の3曲のうち、とくに3番がしんどいといって初め難色を示していた」とある。(ちなみに9番解説には全集に0番が含まれていない理由が紹介されている。「小ぢんまりした、ややしゃれた書法は自分のスタイルに合わないと思い、レパートリーから外しました」ということだが、指揮者が自身のスタイルをどのように認識していたかを知る上で興味深い答えである。)クナ&MPO盤ページでも触れたが、「<3番>なんて、かなわないですからね(笑)」と語っていた朝比奈をレコード会社が強く説得したために、(他のあまり演奏されない126番とともに)スタジオにてこの3番録音が行われたのだそうだ。けれども当盤や84年盤を聴く限り、朝比奈と3番の相性は決して悪くないように私は思う。むしろ、クナのように最晩年までレパートリーに残していたら、あるいは「決定盤」といえるような超名演が生まれていたかもしれないと惜しまれてならない。何せヴァントが92年盤以降一度も録音(演奏も?)しなかった曲だから。

3番のページ   朝比奈のページ