交響曲第5番変ロ長調
ヘルマン・アーベントロート指揮ライプツィヒ放送交響楽団
49/05/27
ARIOSO ARI 108

 ピッチが低い。第1楽章冒頭の「ドーーーーミソドー」の時点でこれはヤバいと思った。その後の大ファンファーレも同様。これでは変ロ長調特有の輝かしさ、荘厳さが出ない。また、8分22秒からがハ長調に聴こえてしまうのも非常に辛い。あまりの低さに耐えきれず、すぐに手放してしまったギルバート(チェンバロ)の「インヴェンションとシンフォニア」(バッハ)を思い出した。(半音どころか全音近くも下げていた。)平林直哉ではないが、これでは到底聴く気にならないので、他盤のページでも触れているSound Effectsにより音声ファイルの加工を試みた。このアプリには画面上のキーボードをクリックすることによって半音刻みに上げ下げする機能しかないので、ピッチの微調整は不可能である。が、一度上げてから下げるという高等技術(どこが?)を発見し、どうにかこうにか少しだけ上げることに成功した(サンプル数はそのままで、サンプリングレートのみ44.100→65.535→46.340kHzと変更)。少々高い気がしたが、同じオケのケーゲル盤と聴き比べたらほとんど同じだった。これで何とか聴けるようになり、金をドブに捨てなくて済んだ。ちなみに変更前と変更後のトラックタイムと総タイムは以下の通り:第1楽章,22:10→21:00;第2楽章,17:11→16:24;第3楽章,13:24→12:48;第4楽章,23:18→22:10;TOTAL,76:03→72:22.(CD-Rに焼いたらなぜか楽章間の余白が飛んでしまっていた。)その結果、どちらかといえば地味で渋い感じだったのがまるでバイエルン放送響やシュターツカペレ・ドレスデンのような輝かしい音色へと変貌してしまった。全く恐ろしいものである。

 これは徳間の1000円廉価盤(TKCC-15066)購入後しばらくして執筆したものである。その後上記ARIOSOレーベルの輸入盤4枚組を買ったが、やはり5番のピッチが低かったので同じ方法で修正(第1楽章,21:58→20:54;第2楽章,17:08→16:18;第3楽章,13:22→12:44;第4楽章,23:18→22:10;TOTAL,76:03→72:06)した。修正前のトラックタイムが徳間盤より短かったためピッチがさらに高くなってしまった可能性もあるが、まあ仕方がないだろう。何となく音が遠かった、というより明らかに音量レベルが低かった国内盤と比べると、残響を加えるなど加工している感もあるが、音が深くなっているように聞こえるので、文句なしに当ARIOSO盤を残すことにした。(HMVのユーザーレビューにも「Berlin Classicsから出ていたものより音がよい」というコメントが出ている。)
 さて、ピッチを上げることによって変わったのは先述した音色だけではない。国内盤の小石忠男の解説にあった「豪快といえる金管の吹奏」は不変だが、「いぶし銀にも似た弦の音色」はどこかに消し飛んでしまっており、演奏に対する印象は「堂々とした風格」から「軽快」へとガラッと変わってしまった。どことなくケーゲルやレーグナー、スウィトナーと似ているようにも聞こえる(特に2楽章が重くならないところ)。もしかすると、これが東独の伝統的スタイルというべき5番演奏なのかもしれない。臨機応変のテンポ設定ではあるが、ブロック内では比較的インテンポを守っていることもあって決してハチャメチャ演奏にはなっていない。以下のCupiDのコメントは的を射ている。

アーベントロートはブルックナーにおいてもテンポの変
化を多用しているが,彼の場合大向うを唸らせるためで
はなく,殆んど旋律をより美しく歌わせるために用いら
れている。しかも全体的にはカチッと引き締まった響き
と造型感をもち,特に5番は秀逸。

目次ページで採り上げたブラームスでは「爆笑」(人によっては「仰天」「噴飯」など)ものの演奏に走っていたアーベントロートがブルックナーでは一転して真っ当な演奏を繰り広げているというのは実に面白い。同じくベトやブラの「やりたい放題」とは打って変わって(版選択が「変態」だっただけで)ブルックナーの演奏自体は「まとも」だったクナッパーツブッシュを思い出した。彼にとってはこの曲の原典版など長ったらしいだけの退屈な音楽としか思えなかったのだろうが、「クナによる唯一の原典版演奏が見つかった!」などのキャッチフレーズを付けて海賊盤を売り出そうと考えるような不届者はどこかにいないだろうか?(そんなのオレだけか?)

5番のページ   アーベントロートのページ