松田美緒(Mio Matsuda)
当サイトで採り上げているミュージシャン中、(生で見たということならディアマンテスおよびアルベルトも該当するが)唯一面識のある人である。とはいえ、Kさん主催のオフ会にて一度謁見を許されただけだから「知人」呼ばわりはあまりに図々しい。「ネット知人の知人」ということにしておこう。
ポルトガル語圏の音楽をレパートリーとしている松田だが、決して帰国子女や日系ブラジル人ではない。大学時代にアマリア・ロドリゲスを聴いてファドに目覚め、独学でポルトガル語を修得したばかりか音楽修行のため2度も渡航(うち後の方は1年間滞在)してしまったという凄い人である。バイオグラフィには「秋田県生まれ、九州・京都育ち」とある。彼女がリスボン滞在中に触れたブラジル、カーボ・ヴェルデ、アンゴラの音楽をも次々と吸収することになったのも、あるいは幼少の頃から引っ越しを繰り返してきたことの影響かもしれない。(次なるターゲットは私のリアル知人である同業者が何度か仕事で行ったというモザンビークあたり?)事実CDジャーナルのインタビューでは「いろんな地域の伝統文化や音楽に触れることが多かったですね」と語っている。そうなるとカナダ(多文化社会)出身ながらケルト音楽の伝道者としての道を選んだロリーナ・マッケニットの東洋版ともいえそうだ。ちなみに松田が(当初志していた社会学の研究者から進路変更して)歌手を目指そうと思い立った切っ掛けは留学先のカナダで先住民と歌うという経験だったらしい。この点でも2人にはつながりがある。(一方、HMV通販の松田紹介ページ「エポカ・ヂ・オウロ経由注目の歌姫登場!」中の「その歌声は、小野リサを引き合いに出されますが」という記述は大いに不満だ。お前らが勝手に引き合いに出しているだけと違うか?「小野リサの新作と聴き比べてみるのも一興!」も単に売りたいだけやろ。両者の音楽性が大きく異なるのは明らか。口から出任せにも程がある。)ただし容貌はあんな風に魔女っぽくなってはもらいたくないが・・・・以下この点について脱線。
これから採り上げる "Atlântica" のブックレット表紙や雑誌のインタビュー等に使用されている松田の写真からは少なからずエキゾチックな感じが漂ってくるけれども実物はちょっと違う。先に触れたオフ会会場のポルトガル料理店に少し遅れて入ってきた彼女は姿形も話し方も「そこら辺にいるフツーの若い娘さん」という印象(よく憶えていないが髪を染色あるいは脱色していた?)で、私が「ファド歌手」という言葉から勝手に想像していた「ちょっと近づきがたいほど神秘的な雰囲気を湛えた女性」では全くなかった。「Jポップ界で売り出し中」などとして紹介されたら信じてしまったかもしれない。(昨年=2006年に発売された「ピタンガ!」のジャケット写真は結構ギャップが小さいという気がする。)
ところで、当サイトでは「世界最高のクラシック」「世界最高の日本文学」といった本を紹介している。それとは無関係ながら、松田のアルバムには疑いもなく「最高」が収録されている。とはいってもそういうタイトルの曲だが・・・・それが "Atlântica" の収録曲 "Saiko"(サイコー)である。(曲名および歌詞の一部に日本語が入っているのは1960年代にわが国のマグロ漁船がカーボ・ヴェルデを訪れていたことによる。)実は発売前から知っていた。件のオフ会でのことである。スタジオから駆けつけたという歌手はスタッフが作成してくれたというCD-Rをバッグから取り出した。"Atlântica" 発売の少し前のことだったから、あるいは同じ曲目を収めたモニター用のディスクだったのかもしれない。それを早速店内で聴く・・・・はずだった。ところが聞こえてきたのは全然違う音楽で歌手は目を白黒させるばかり。(Kさんによるとライヴでも結構「天然」ぶりを発揮しているらしい。)そこで別盤を再生することになった。曲のほとんどは忘れてしまったが、この "Saiko" はしっかり耳に残ることとなった。何せ親しみやすいメロディだし、ディスクの総収録時間が短かったため何度も繰り返し聴くことになったから。店内に流れていた自分の歌声に合わせて「サイコー、サイコー」と口ずさんでいたお嬢さんの姿が今も目に浮かぶ。
Atlântica(アトランティカ)
2005
Victor VICP-63039
ということで、ここからはディスク評である。現時点で1枚しか所有していないにもかかわらず歌手総論とレビューとに分けたのは、2枚目以降を購入する可能性を考慮に入れたためである。(当サイトにおいて総論ページから複数ディスク評へのリンクを貼るという形式が今のところ主流となっているのは、思い入れの強いアーティストの執筆を優先しているからに過ぎない。私をして他盤も聴いてみようという気にさせられた歌手・グループよりも1枚買ってお終いという方が実は多数派なのだ。果たして松田は「その他大勢」から「選ばれた人達」へとグレードアップすることができるだろうか?)
2007年8月追記
・・・・などと書いたが、先月 "Pitanga!" を入手したことにより見事昇格を果たした。おめでとう。これを機に構成を完全に組み替える(ディスク評ページを分離する)こととした。
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