私の再生装置

 これを書いていないと不公平になると思ったので一応書く。読者に「こんな安物で聴いているからこんな評価になるんだ」と理解していただくためである。
 ハッキリ言って大したものは持っていない。「クラシック遍歴」で書くことになるであろうCDラジカセの後はONKYOのミニコンポ(標準小売価格¥179,800を¥99,800で買った)が続き、それが潰れてからはKENWOODの同じくミニコンポを買った。これは大学生協が年2回開催していた大セール(「虹のつどい」という名前だった)にて展示処分品(1台限り¥29,800)を買ったので非常にお値打ちだった。ジャンケン大会による勝ち抜き者に処分品の購入権が与えられるので、嫌な記憶が私の頭を一瞬過ぎったのだが(註)、MDプレーヤが搭載されていないと知ったライバルが下りたために無競争で獲得した。(当時はCDコンポからMDコンポへの移行期で、MDなしモデルは値崩れしていたのである。)

註:その2年ほど前の「虹のつどい」で、私はPowerBook Duo(←懐かしい名前だ)のセット(本体+ドック)の処分品を手に入れるべく、ジャンケン大会に臨んでいた。後輩が3人付いてきてくれたのでこちらは4人、ライバルはたった1人。「これはもうもらった」と思ったのも当然であろう。(単純に考えれば80%の確率だ。)ところが「まさか」が起こってしまったのである。仕方なくPowerBook100(←これも懐かしい)を買い、「俺はなんて運の悪い男なんだ」とガックリと肩を落としつつ帰ろうとしたが、(1万円につき1枚もらえる)福引き券のことを思い出し、気を取り直して抽選会場に向かった。そして奇跡はいきなり起こった。三角くじ十数枚を一掴みで引いたと記憶しているが、最初に開けた1枚目で1等が出てしまったのには仰天した。(懸賞や抽選の類でこのような高額賞品が当たったのは後にも先にもこの1回だけである。)賞品のマウンテンバイク(ママチャリかMTBのどちらかを選ぶので迷わず後者にした)を押しながら「人間万事塞翁が馬」を身に滲みて感じた一日であった。ただし、通学用自転車を既に持っていたので、MTBは使われることもなく実家の納屋で何年か過ごすことになる。私が地元に就職しなければ、そしてある土曜日にふと「今日は自転車で職場に行ってみるか」と考えなければ今でも眠っていることになったかもしれない。そして、私があの時に1等を当てていなかったらこんなにも自転車にのめり込むことは絶対になかったのだ。あの1日は紛れもなく私の人生を変えたのである。(よくもまあどうでもいい話をこんなにも続けられるもんだ。 )

 このKENWOODで特に不満もなく音楽を聴いていた。ところが、今も定期購読している科学雑誌の広告に出ていたBOSEのWaveradioという品がどういう訳か無性に欲しくなり、1999年の夏にとうとう買ってしまった。5000円で付けてくれたポータブルプレーヤと接続してCDの再生に利用している。購入直後の印象をKさんにメールで送っていたのを思い出したので読み返してみたところ、「それまで経験したことのない音に心底から感動している様子」がアリアリと目に浮かんできて微笑ましくなった。(恥ずかしいので載せない。)ただ、この装置は2本のスピーカーの間隔が狭く、左右の音の分離や広がり感という点では劣る(しかも低音用は1本のみ)。パンフレットによれば、室内で音楽を聴く場合には間接音が大部分を占めるため、壁からの反射が十分ある部屋ならば問題ないということだが、木造で壁の薄い我が家は遮音が全然なっておらず、反射はあまり期待できないし、無理して反射するほどの大音量にしたら家の内外から苦情が来ることは間違いないので我慢するしかない。しかし、室内楽曲や独奏曲では本当にいい音がする。(これを買ってからKENWOODはラジオ語学講座の留守録専門という地位に押しやられた。)
 続いて今世紀の始めに同じBOSE(ただし発売元は違うらしい)のAW-1というラジカセを入手した。ネットで調べてみると、これは市販品ではなく、訪問販売員による試聴会で気に入った人がついつい衝動買いしてしまう(20万以上するのでローンを組んで購入する)というおそろしい品なのだが、私はネットオークションで2万ちょっとで買った。これはWaveradioと比べると高音の抜けが悪く、明らかに大味な感じがする。ここでも近所迷惑を懸念して音量が上げられないために本来のポテンシャルが発揮できていないのかもしれない。(置き場がなくて絨毯敷きの床に直接置いているのもたぶん良くないのだろう。)ただし、大型だけに低音は比較的よく出ており、ベルリン・フィルの重厚な響きを「おーすげーすげー」と楽しむ分には向いている。(あと、ギターやリュート、テオルボといった弦楽器の独奏曲では、演奏者が近くで弾いているのでないかと思うほどいい音色で鳴る。)結局AW-1はテレビと繋ぐことになった。サッカー中継を観ると臨場感抜群である。
 他には職場にCDラジカセを置いてあり、通販等で買ったディスクの試聴に用いている。だいたい数年でダメになるのでそのたびに買い換えている。現在所有しているのはSONYの6980円の安物である。これにヘッドフォン(DENONのAH-D210、たしか「虹のつどい」の特価品で1980円だった)を繋いで聴くこともあるが、これは新マスタリングによる再発盤の音質が旧盤と比べて本当に向上しているかをチェックするためである。あと、毎日(月〜金)の自動車通勤の間(往復で1時間弱)、カーステレオでCDを聴いている。(6連奏チェンジャーで交換の手間が省けるし、何といっても停止したところから始まるのが嬉しい。)なにせ閉鎖空間だけに音量を手加減しなくて済むのは大きい。もしかしたら一番いい音で聴いているのかもしれない(註)。同乗して「いい音がするなあ」と感心した人も少なくない。そんなに高級な装置であるはずがないのだが・・・・・

註:私の車は燃費もそうだが静かなのが取り柄で、ガソリンエンジンで走っていても車内はそれほどうるさくならず、音量差の大きいクラシックを聴くにはうってつけである。それに慣れていたから家族の使っていた車はやかましくて我慢できなかった。(エンジン音を楽しむという許光俊とは正反対である。)四輪車には全くといっていいほど興味のない私だが、この点では本当にいい車種を選んだと思っている。なお、先述した家族所有の車を廃車にするというので私のを譲り、自分は昨年発売された新型に乗り換えた(4カ月待ちで届いたのは2004年2月) 。こちらは燃費の大幅な向上をはじめ多くの点で改良がなされていることは認めるが、車内の騒音は若干大きくなったような気がしてやや不満である。

2004年10月追記
 6月末にSONYのMDシステム「アイワ XR-MJ1」を購入した。(アイワがソニー傘下に入っていたことは、これを執筆するまで暢気にも知らなかった。)大学生協のチラシに載っていた台数限定品で税込¥19,740だった。もちろんMDだけでなくCDも再生可能だが、さらにカセットデッキも付いている。セパレートタイプ(本体とスピーカーが別々)で持ち運びには向いていないが、何せ安かったので仕方がない。(当初はCD/MD/カセット一体型のラジカセの購入を検討していたが、予算の範囲内では見つからなかった。しかし、後で考えたら上記KENWOODからライン入力すれば良かったので、カセット機能はなくても構わなかったのだ。)カセット付きにしたのは理由がある。これまで溜め込んできたテープの劣化がそろそろ心配になってきたためである。古い時期のエアチェックテープには既に15年を経過したものもあるし、南米在住中に録音したものには掛け替えのない思い出が詰まっている。もちろんお金で買えるものではなく、失われたらそれっきりである。今年の夏は1ヶ月近くかけてテープからMDへの引っ越しを行った。もっとも、MDにしても今や時代遅れになりそうな雰囲気であるし、劣化するという点ではテープと五十歩百歩である。あくまで一時しのぎに過ぎない。(大容量のハードディスクに保存しとこうか?)
 このシステムのスピーカーから出る音は実にチャチなもので、全く聴く気がしない。よってイヤホンジャック経由(出力端子なし)でWaveradioに接続している。とはいえ、これにはリモコンが付いているので非常に便利だ。(Waveradioのおまけのポータブルプレーヤにはリモコンがなかったため直接操作が必要だったし、勝手にリピート再生するなど時に誤作動もあった。)また、ポーズ状態からの早送りと早戻しが迅速なので、異演奏の特定箇所を聴き比べるには都合がよい。当サイト作成にも大いに貢献している訳である。(ちなみに、本体の電源を入れると「○月○日 今日ハ ○○○○ ノ タンジョウビ」というメッセージが表示される。オマエは林家ペーか!?)一方、ジャマになったKENWOODを弟に市内のHARDOFFに売りに行ってもらったが、1500円という査定で足代にしかならなかった。(当然ながら駄賃として全額取ってもらった。)完動でまずまずの美品だったが、何せ型が古いのでやむを得まい。
 そして10月には、またしてもBOSEのスピーカーシステムCompanion3を買った。CDジャーナル10月号に載っていたBOSE社の広告を見た途端に欲しくなった。とにかくこのメーカーはこじゃれた製品を造るのが得意なようである。ネットで捜し回った限りにおいて最も安かった(10月20日時点で、消費税、送料、振込手数料を入れてもkakaku.comの最安値よりもかなりお買い得)兵庫の販売店から買った。職場を届け先にしていたので、到着後に早速開封して研究室で試聴を行った。PowerMacG4と接続し、iTunesのラジオチューナからクラシック(管弦楽曲)を再生したところ、予想以上にいい音で鳴った。満足満足。台風直撃の日で部屋にはほとんど人がいなかったが、唯一来ていたある院生は「こんな小さなスピーカーから・・・・」「久しぶりにいい音を聴いた」などと感激していた。
 帰宅後、自室にセッティングして他の機器と比較。もちろんXR-MJ1のスピーカは論外。問題となるのは、これまでメインにしていたWaveradioとの優劣である。左右の分離は当然ながら圧倒的に良い。そのため、室内楽ではCompanion3の圧勝。一方、音質という点では高音の伸びにもう一つ物足りなさを覚えたため、ピアノ、ヴァイオリン、ギターなどの独奏曲ではWaveradioに軍配。続いて交響曲を再生したが、迫力不足を感じた。ある程度ボリュームを上げないと良さが発揮されないようである。その点ではWaveradioも同じだが、そうなると高音不足の分だけCompanion3は不利である。ポップスではCompanion3のセンタースピーカー(ベースモジュール)から伝わってくる低音が心地よい。ジャズはやはり高音不足のためWaveradioに一歩を譲るように思う。というように、今後はジャンルによって使い分けをすることになりそうだ。
 何にせよ、このCompanion3も本格的なオーディオマニアにとっては「おもちゃ」同然の安物に過ぎなののかもしれない。が、既述したように住宅事情が音量を上げるのを許さない(木造家屋では低音の方が壁を抜けやすいようで、かなり離れた家からでも「ボンボン」というビート音だけが聞こえてくる)私にとっては、十分なクオリティを持ったスピーカーであるといえる。なお、コストパフォーマンスはWaveradioよりも断然上である。

2005年4月追記
 またしてもBOSEで恐縮だが、AWM(Acoustic Music System)というのを今月買った。上記AW-1にCDプレーヤを組み込んだAW-1Dの後継機種らしいが、やはり訪問販売にて購買意欲をかき立てられ、思わず高額ローンを組んでしまうという「地獄街道まっしぐら」とでも言いたくなるほどオトロシイ品のようである。もちろん私は新品ではなくネットオークションで中古を入手した。(出品者の入手経路も同じだったらしく、少なくとも「中古の中古」だが、もしかしたらそれ以上に人の手を経てきたかもしれない。)落札価格71000円プラス諸経費ナリ。私がこの品の存在を知った頃は落札の相場が10万を少し超えたあたりだったので、7万丁度だったのを見て野次馬高値更新した(入札単位分だけ上げた)ものの、まさかそのまま終了するとは思っていなかった。後で知ったのだが、カセットの代わりにMDデッキを内蔵したVIAという新機種が登場したので、値崩れが始まっていたのである。(ちなみに、そちらは間違いなく10万以上になる。)後に5万ポッキリで落ちたのを見て「早まったか」と臍を噛んだ。(2005年5月追記:さらに後に出品された際は7万ジャストまで上がったので、「まあ大失敗というほどではなかったか」と気を取り直した。ところがである。終了日の翌朝には何と「現在の価格:110,000円」になっていた。ビックリして「詳細な入札履歴」を見たら、「現在の価格が、最低落札価格の 110,000 に引き上げられました」とある。おそらく7万では売りたくなかった出品者の仕業だろう。まったくロクでもない野郎である。私は運が良かった。)
 さて、ネット上では「空気清浄機」と評されることもある外観だが、AW-1(D)シリーズと比較するとAWMは音質面でも改良が施されているという話である。なんでも低音用スピーカー(ウーハー)1本、および前後左右に配備された中高音用スピーカー6本を内蔵し、それらが全方向に音を飛ばすということだ。実際に聴いてみると、確かにAW-1の迫力はそのままに大味という不満が解消されていた。(ただし「音が散ってしまうため迫力不足」というネット評も見た。私は大音量で聴かないから全く問題はないが。)Waveradio並に高音もしっかり出ており、要は両機種の「ええとこどり」をしたような感じである。7万強というのは決して安くはないが、そんなに悪い買い物ではなかったとは思っている。主電源のオンオフとCDプレーヤ部の操作が1つのリモコンでできるようになったのも嬉しい。(これまではMDシステムとWaveradioそれぞれにリモコンが必要だったし、AW-1にはそもそも付いていなかった。)
 ところで、AWMで聴くようになって驚いたことがある。従来のWaveradioによる再生ではヒスノイズが鑑賞の妨げとなっていた一部のディスクの印象が一変したのだ。(どうやらWaveradioの方が高い周波数まで出ているようである。)例えばマタチッチ&VSOの3番(METEOR)は「こんなに素晴らしい演奏だったのか」と目から鱗、じゃなかった耳から垢が落ちた。ハイティンク&BRSOの6番(Lucky Ball)も同様である。(ただしマタチッチ&VSOの海賊でもHYPNOSの7番はやっぱりダメで、やはり元が悪すぎるのは救えないようだ。)実は今月に批評執筆を予定しているCDの比較対照盤として新装置で聴いたディスクの印象があまりにも素晴らしく、そのためランキング上位にまで影響が及んでくる可能性が出てきている。(海賊盤で出回っている方が圧倒的に多いこの指揮者の場合、再生装置によって評価が左右される度合いが極めて大きいと痛感した。)既に当サイトに評を載せてしまったディスクも全部最初から聴き直し、批評およびランキングも改めて作成するというのが望ましいけれども、それはとんでもなく時間と労力を食うことであるから、更新が当分の間ストップしてしまうのは間違いない。よって不本意ながら、そして公正を期すためにもこれまでと同じ再生装置(家ではWaveradio、職場ではSONYのラジカセで必要に応じDENONのヘッドフォンを接続)での試聴を続けることとした。なお、AW-1は完全にお荷物になったので弟に譲り、Companion3も現在は職場で(ディスク評を執筆する場合を除いて)パソコンからの出力用として使っている。これまで実に7年間も使わされてきたPowerMac 8500が遂に今年度からiMac G5に更新され、デスクトップに余裕ができたからである。3万弱の装置でこれだけの音が聞けるというのはやっぱりありがたい。
 なお、Waveradioの後継機種「Wave Music System」が最近発売された模様で、雑誌広告で浅井愼平が「ものすごく進化してるね」と絶賛しているのを目にした。掲載されたイラストからも、「デュアルウェーブガイド」という名前からも想像できるように、パイプオルガンと同じ「管共鳴」を利用した「アコースティック・ウェーブ・ガイド」がWaveradioの1本から新設計によって2本内蔵へと増強されたらしい。(ちなみに旧モデルの広告には、特許技術「アコースティック・ウェーブ・ガイド」の説明として「ボディ内部に巡らされた68.5cmの管」と書かれていたが、その長さは幅35.6cm、奥行21.6cm、高さ11.1cmという外形寸法の合計とほとんど同じである。ようわからんなぁ。) そのお陰か「クリアさ、低域の深さが全然違う。演奏している空間が変わったと思えるくらいの差がありますね」(浅井)という話である。興味をそそられたが、ネット上では決して賞賛一辺倒ではなく「低域は出ているが質が良くない」といった否定的意見も出されているので、しばらく様子を見ることにした。安価な中古が市場に出回るにはまだまだ時間がかかるだろうし・・・・そもそもWaveradioは購入してから間もなく6年になろうとするのに(保証期間はとっくに過ぎてしまった)故障一つしないので、買い換える必要は全くないのである。

2006年8月追記(事後報告)
 そんなことを述べていながら、昨年12月にWave Music Systemを入手してしまった。(例によってYahoo! オークション経由。新品同様で正確な数値は憶えていないが、振込手数料と着払いの送料を加えても7万を僅かに切ったはず。)Waveradioと聴き比べても格段に音質が向上したという印象は受けなかったが、「P.A.P.回路」(ボリュームに応じて音響バランスを自動的に調整する技術)を搭載しているお陰か、音量を絞っても細部まで聴き取れるのはありがたい。なので枕元に置いて早朝と深夜の再生に利用している。それ以上にリジューム機能を備えているのが嬉しい。(AWMはチューナーやライン入力に切り替えただけならリジューム再生も可能だが、電源をオフにしたらリセットされてしまう。)
 ただし少しばかり難点がある。カード型リモコン(大小2つあるが中身は同じ)だけで操作するようになっている。その使い勝手については問題ないのだが、大の方は電池との接触が良くないためか、時に操作できなくなるのが不満である。(上下から圧迫すればすぐ治るが。)また、スロットローディング方式は便利ではあるものの、スルスル滑って素直に入ってくれない(ため押してやる必要がある)CDが結構多いのも苛ついてしまう。

 ということで、私は口が裂けても「いい再生装置で聴いている」とは言わない。BOSEが某掲示板ではピュア・オーディオと認知されていない(なら「プア・オーディオ」か?)ことも、「坊主」と呼ばれていることも知っている。が、私にとっては別にどーでも良い。「1本10万円以下のスピーカーなど糞」「100万円以下のシステムでいい音が聞けると考えること自体間違い」という世界は私には一生縁がないと思っている。
 なお、私がそのような考えを抱くようになったのは決定的ともいえる出来事を経験したからである。興味のある方はこちらへ。そうでない方(既にウンザリしている人)は下をクリック。

もうウンザリ