An ancient muse(古代 (いにしえ) の女神)
2006
Oak Tree Records/Quinlan Road DDCJ-5008(QRCD 109)

 「(心の)痛みに耐えてよく頑張った! 感動した!」と私も誰かさんのように賛辞を贈ることについては吝かではないが、続けて「おめでとう!」(御祝儀として100点満点)とはいかない。やはり復活のエピソードだけでなく音楽からも十分感動させてもらえないことには。
 トラック1 "Incantation" (ヴォカリーズ)は、ようやくにして(スタジオ録音盤としては "The book of secrets" から実に9年ぶりの)カムバックを果たした歌手の雄叫びのように聞こえた。ただし器楽部が既に耳にしたような響きなのは気に懸かる。次の "The gates of Istanbul" は弦楽器の奇妙な伴奏が耳に付くだけで旋律は平板であり、特にサプライズといったものはない。2分以上もある不気味なイントロを受けて始まる次の "Caravanservai" も前曲同様のトルコっぽい音楽、というより既に前作で似たようなのを耳にしている。以降のトラックも異なる文化圏の要素が採り入れていることは認める。が、どれも "The book...." から予想された落下点からさほど遠くない場所に着地しているという印象である。そのため常に安心感があり、マッケニットの復帰を心待ちにしていたファンにとっては感涙ものかもしれない。けれど、勢い余ってすってんコロリンみたいなサプライズが少しぐらいあってもいいんじゃないか、と考えている私としては不満が残る。
 そんな訳で一種の「リハビリ盤」ではないかとも言いたくなるが、それでいてブランクを全く感じさせないのが凄いところである。これだけの完成度を示している作品から10点以上引く訳にはいかない。だたし、当盤と前作のどっちかがあれば十分という気もしなくはない。よって、両盤は単独ならば共に90点ながら2枚合計では170点(平均85点)という妙な評価になってしまった。なお、後発アルバムが同じようなスタイルなら私はもう手を出すつもりはない。むしろ酷評されるぐらいなら考えてもいい。

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