Live in Paris and Tronto
1999
Quinlan Road QRCD 108(VE 15045)

 この2枚組は "The Book of Secrets" 発売後のワールドツアーにおける2都市のライヴ(1998年4月パリ、同年5月トロント)を収録・編集したもので、既に述べたようにDISC1の収録曲は完全に同一である。「スタジオ録音盤のアレンジは凡庸」というネット評を目にした記憶がある。確かにそうかもしれない。また、ライヴの方が全体的にテンポが速いだけでなく即興的な崩しも入っているようだ。とはいえスタジオ盤との極端な違いはない。トラック1 "Prologue" はどっちでもいいという印象。しかしながら、次の "The Mummers' dance" の序奏はライヴの方が明らかに騒々しく、響きも少々混濁しているようだし、歌詞の出だし "When in the springtime of the year" の "year" が随分と野放図というか投げ遣りに聞こえてしまった。こうなると完成度の高い方が望ましいと常に考える私ゆえ、重複したDISC1を手元に置いておく訳にはいかない。後にオフ会で同席した方に譲ってしまった。よって、ここでは残ったDISC2についてのみコメントする。
 全9曲の内、トラック126が "The mask and mirror"(1994年発表の第5作)、残りが "The visit"(1992年発表の第4作)の収録曲である。一部ながら聴いたことのある "Parallel Dreams"(3rdアルバム)と "The Book of Secrets"(6th)の間のギャップをこれまた不完全ながら埋めるという意味ではありがたい。
 "The Book of Secrets" のようなプロローグがないから、いきなり喧噪の中に叩き込まれる。最初の2曲を収めた "The mask...." はHMVによると「スペイン、イタリア、モロッコ、北アフリカで吸収したエッセンスの全てが集約された名盤」ということだが、この際そんなことはどうでもいい。とにかく賑やかなのは事実だが、なぜか耳障りではないのである。ごちゃ混ぜにされてはいても、一応トラッド(伝統音楽)・フォークには聞こえるのだ。旅先の小さな村で偶然お祭り騒ぎに出くわした。せっかくだから見物していこうか、みたいな心境に近いだろうか? 少なくとも逃げ出そうという気にはならない。"The visit" から採用された6曲はさらに良い。何といっても妙な楽器の音が聞こえてこないのが嬉しい。特にハープと弦楽の伴奏による3曲目 "Bonny Portmore" は絶品である。(デビュー盤 "Elemental" の収録曲に物足りなさを感じた人もこれでは文句の付けようがないだろう。)
 後のトラックほど客席が盛り上がっているから、基本的にコンサートの演奏順に収録していると思われる(ブックレットが残ってないので確認不可能)。終盤では声も多少疲弊している感じだ。だが、(またしても)そんなことはどうでも良くなる。ラスト(アンコール曲)のハープ弾き語りによる "Cymbeline" の歌声は心にスッと入ってくる。実に感動的だ。歌い終わったマッケニットの "Thank you very much" を聴いて「こちらこそありがとう」と内心つぶやいてしまった。歌手が退場した後に3分ほど音楽が流れ、それによる余韻が漂ってくるのも素晴らしい。
 ここで果実に喩えると、私の好みからはやや外れてしまった感のある "The Book of Secrets" が「過熟」であるのに対し、その少し前に作られた曲を集めた当盤はまさに「完熟」、音楽的には文句の付けようがない。ライヴゆえの問題(主に音響面)があるとしても95点を割ることはあり得ない。

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