The Book of Secrets
1997
Warner Bros./Quinlan Road 0630-19404-2

 公式サイトによると "The Visit"(4thアルバム)から始まった「紀行音楽三部作」の最後を飾る作品らしい。HMVの紹介文には「マルコ・ポールの『東方見聞録』など世界の歴史的な書物に題材をとり、その各地の音楽的要素を盛り込んで作り上げたコンセプト・アルバム」とあり、「ギリシャやシベリアの旅から得たインスピレーションも大きく作用」しているとのこと。確かにガイタ(アコーディオン)が時に聞こえる以外、ケルトの要素は全くといっていいほど伝わってこない。
 さすがに通算6作目ともなれば、この手の多国籍(無国籍)音楽を作るにしても手慣れたものだったはず。とにかく隙がない。ただし(きっとこういうのが好きな人は気に入るのだろうが)私としては「ちょっとなぁ」という気分である。
 トラック1は "Prologue" だから措くとして、次の "The mummers' dance" を聴いて楽器の種類の多さに面食らってしまった。特に頻繁に茶々を入れる琵琶みたいな弦楽器が煩わしい。例の映像作品にて「声はあらゆる楽器の中でも最高のもの」などと語っていたマッケニットだが、その美しさを損なっているのではないか? 5曲目の "The highwayman" も出だしはいいが途中から騒々しさに辟易する。ラス前の "Night ride across the caucasus" は旋律も歌唱も見事なだけに、もう少し伴奏がシンプルであったなら寂寥感がより際立ったはずなのに、と惜しまれた。一方、曲の後半で歌手が少しだけヴォカリーズとして加わるトラック4 "Marco Polo" は結構面白く聴けた。1曲措いた純インストゥルメンタル曲の "La serenissima" はさらに良い。つまり歌なしトラックの方が印象は上回るという皮肉な結果となった。(なお、エピローグとして措かれたであろう "Dante's prayer" はピアノ伴奏を主体としており、異国情緒も全く感じないことから当盤中では全く異質、むしろ「番外」に位置づけられる曲かもしれない。だからという訳でもないが、私は最も気に入った。)
 とはいえ、マッケニットの方も(高音部こそ "Celtic Woman" で披露していたのと同じソプラノ・ヴォイスながら)低い部分ではクセのある声を出すことも意に関していないから、器楽部とのバランスは保っているのかもしれない。そうなると(私のようなハシゴ客ではなく)デビュー作から順に追ってきたリスナーで、かつ彼女の芸風の変化にも対応できた人ならば当盤もスンナリ受け入れられたであろうと想像する。などとゴチャゴチャ書くまでもない。世界で数百万枚(HMVによると300万枚以上)を売り上げたというのだから。好き嫌いを排除してしまえば当盤に90点未満を付けることは絶対に許されない。

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