Mujeres Argentinas
1991(オリジナル盤発売は1973)
PolyGram (Polydor) 510 509-2

 紹介ページに記した通りAmazonマーケットプレイスから入手した。出品者名が "tangotienda" だったので「あるいは」と思っていたが、やはり受け取った郵便物にはREPUBLICA ARGENTINAの切手が貼ってあった(消印の地名が読めず残念)。またCDのレーベル面には "Industria Argentina" と印刷されている。ビニール包装されていたから未開封の新品かもしれない。(なぜかブックレットの端が少し破れていたが。)デジタル・リマスター盤である。ちなみにオーマガトキから2003年に「アルヘンティーナの女」(SC-3124)が発売されている。ちなみに私が買った輸入盤のジャケットは本のデザインであるが、国内盤には歌手の上半身イラストが使われている。ただし顔の縦横の比が他盤よりも大きいことから若い頃に描かれたと思われる。
 この連作歌曲集の作曲者、あり得る、いやアリエル・ラミーレス(Ariel Ramírez)といえば、クラシック愛好家にとってはカレーラス独唱による "Misa Criolla"(ミサ・クリオージャ=南米大陸のミサ)その他を収めたPhilipsのCDが最も知られているかもしれない。(もちろん「アイーン」や「ゲッツ」などのギャグを次々とパフォーマンスに採り入れている某球団のアレックス・ラミーレスはベネズエラ出身だから無関係である。無駄口ついでだが、たまにはオリジナルも考えろよとは言いたくなる。)あの宗教音楽からも実力の程は十二分に窺い知れていたが、当盤収録の8トラックも負けず劣らずの佳曲揃いである。
 生まれも育ちも異なる女性8人の生き様をテーマとした音楽作品ゆえ、当然ながら器楽編成や曲調は変化に富んでいる。もちろんトラック配置に際しては、明暗や緩急にコントラストを付けて単調に陥らぬよう配慮されている。ちなみにトラック2の "Juana Azurduy" のみボリビア人で、他7名がアルゼンチン人という構成である。(パラグアイが含まれていないのは惜しいけれども、それを減点対象にするといったアンフェアな真似はもちろんしない。)とはいえ、その2曲目が特にアンデス風と感じられるようなことはなく、国籍と音楽との間に特に密接な関係を見い出すことはできなかったというのが正直なところだ。
 それはともかく、やはり極めつけは単独で紹介されることも多いトラック5の "Alfonsina y el mar" だが、ギター1本の伴奏による前曲 "Dorotea, la cautiva" が静かに終わった後に例の独奏ピアノによる哀愁タップリの旋律を聴くのはまた格別の味わい深さがあった。他では3曲目 "Rosarito Vera, maestra" も同様のシミジミ系で心に染み入ってくる。これに限らず、当盤ではチェンバロの使用が非常に効果的であった。"Alfonsina...." に続く "Manuela la tucumana"(この曲はRAEで聴いたことがある)でも派手なイントロを奏でているが、ガラッと雰囲気を変えるには最適といえるだろう。ラミーレスは渡欧してマドリードとウィーンの音大で学んだという話だから、本来南米にはなかった楽器にもかかわらず惚れ込んでいたのかもしれない。
 音楽自体に欠点は全くないから、この時点では90点を確保。ただし超名曲とまで評価できるのは2曲(トラック3&5)に留まるから平均では92.5となる。ところがそれでは終わらない。トータルタイム30分48秒には「オマケの1つや2つぐらい付けろや」と文句を付けたくなるし(←我ながらヤなクレーマー)、ラストに置かれた "En casa de Mariquita" の終わり方があまりにもアッサリしているのは物足りなさに輪をかけている。この傑作を締め括るには力不足との印象が拭えないのだ。長さは仕方ないとしても、こちらは配列を工夫さえすれば解決できたのではないか? これは減点対象としては決して小さくない。ということで88点とさせてもらった。

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