ベティ・フィゲレド(Betty Figueredo)
Sus Mejores Éxitos
1997
DISCOS ELIO F.E.V. 253
フィゲレドの歌もVCPでよく流れていたから名前を知っていた。(当盤を入手するまで「フィゲレロ」と思い込んではいたが。)鋭さが特徴のボガードとは異なり、声質は丸みを帯び歌い方もソフトな感じ。時に揺れることもあったけれど、いかにも「ベテランのワザ」と言いたくなるような味のある歌を聴くと心が和むため、お気に入りの一人だった。2000年のパラグアイ再訪時に足を踏み入れたショップの店員も知っていたので首尾良く当盤をゲット。ジャケット裏面掲載の経歴によると1952年生まれということだが、写真からもそれなりにお歳を召した方と分かる。ついでながら、その上半身像から判断するに体格の方もそれなりに立派のようである。後述するほどムチャクチャに太っている訳ではないけれども。(以下余談:パラグアイ人は男性でも女性でも青年期を過ぎると途端にブクブク太ってしまう人が少なくなく、肥満人口の占める割合は米合衆国と並んで世界ではトップクラスのようだ。記憶に新しいのはアスンシオン郊外のスーパーマーケットで2004年8月に起こった火災。客が商品を持ち逃げすることを恐れてオーナー親子が出口に鍵をかけてしまったため焼死者が百人を超える大惨事となった。その咎で逮捕された息子の方は優に体重200kgはありそうな超肥満体。パラグアイ・メーリングリストを主催するTさんも当時「いったいどうやったら人間はこんなに醜くなれるのだろうか?」などと書かれていたと記憶するが全く同感だった。彼らのような裕福な連中だけではない。酒樽のような体型のパラグアイ人はどんな田舎にも必ずいた。その理由についてTさんが昨年ご自身による考察を披露されていたが、もう手元に残っていないので思い起こしつつ書いてみる。あの国ではパンも食べるが伝統的主食はマンディオカ(塊根を食用とするトウダイグサ科植物のグアラニ語呼称mandioから派生したスペイン語、ただし他の西語圏ではユカyuka、英名はキャッサバcassava) である。そして何かあると、いや何もなくとも肉を食う。牛が人間の何倍もいる国だから牛肉は物価レベルからするとそんなに高くはない。周りに海がないから魚はあまり食べないし食習慣は相当に保守的だから、結局のところ大金持ちでも低所得層でもご馳走として思い付くのは結局アサード(asado、焼肉のこと)ぐらいしかない。つまり芋&肉によるツープラトン攻撃にしょっちゅう晒されている訳である。(副菜としてサラダが出ることがあっても大抵はポテトサラダで生野菜はまず食べない。マテ茶さえ飲んでいれば全てのビタミン類について必要量を摂取できると信じているためらしい。栄養指導や野菜栽培の普及のために来ていた同僚達も苦労が絶えなかったようだ。)それもハンパな量ではない。そういえば2000年の出張に同行した先生は、夕食時に頼んだ牛カツが皿から大きくはみ出していたのを見て目を丸くされていた。(ハンバーガーやサンドイッチの類も同様で、ナイフとフォークなしでは食べられない。)仮にそれに見合うだけの炭水化物を摂るとしたら1回の食事だけで2000キロカロリーに達してしまうだろう。これで太らずにいるのは奇跡に近い。)
キャリアの長い人ではあるが、このベスト盤には比較的若い頃の音源が収められているようである。この頃のフィゲレドの声質はどことなくボガードと似ており、私がラジオで親しんでいた軟らかい声とは少し違うという気もするが、VCPは比較的新しいディスクをかけていたのだろう。何にしても当盤には技術的な不安が全くないのが嬉しい。この人はどちらかといえばテンポの速い曲に適性を示すようである。そのせいか当盤ではポルカの占める比率が9/14となっている。うち何曲かは何ともいえぬ懐かしさを感じさせる(実際にメロディに聞き覚えがあるからだ)が、伴奏は少し凝っており、アルパやギターに加えてアコーディオン、鍵盤楽器(エレクトーンやピアノ)、管楽器(ラッパやクラリネット)なども積極的に採り入れている。そんなこともあって約40分がアッという間に過ぎる。
残念なのは多くがモノラル録音と聞き紛うほどに分離が悪いこと(ただし音質はまずまず)。また、ボガードのレパートリー中で最も気に入っていたトラック12の "Che parahe kue"(ケース裏には "CHE PARAJE CUE" とあるが、グアラニ語の西語式綴りを私は好まない)が全曲中で最も音質劣悪(生粋のモノラル)で、しかもテンポが速すぎて曲本来の良さが出ていないのも惜しい。これがステレオで、そしてボガードと同じくガローパ(ギャロップ)風に弾むような感じで歌ってくれたら申し分なかったのだが。とはいえ、これを責めるのは気の毒である。録音に対する不満だけを減点対象として80点としておこう。
おまけ
実は他にも気になる女性歌手が1人いた。ボガードのディスクにも収録されている"Pájaro choguy"(ただし今もどんな鳥なのか不明)で透き通った美声を聞かせてくれた人である。ところが名前が判らないため探しようがなかった。(目次ページに書いたように手当たり次第買ってみたけれど結局当たらなかった。)実はVCPが音楽を流すケースとして主に以下に述べるような3種の形態があった。1つ目はここで何度も触れたリクエスト番組(名前思い出せず)、2つ目は "Melodías Nativas" というDJなしの音楽番組(現在は "Música Nativa" と改題された模様)、そして(タイムテーブルがカチッとしていないために生じた)空き時間を埋めるために急遽1〜2曲かける場合。私が音楽コレクションを作った際には最初の2例を聴きながら待機していたのであるが、第2の場合はもちろん歌手やグループの名がアナウンスされることはなかった。そんな訳で私がテープとして所有している音源の半分以上が演奏者不明という自分でも情けない事態に陥ってしまったのである。
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