ファニー(Fanny)

Mi Añoranza
2003?(録音は2001)
Guairá Producciones GP-0025

 ブックレット表紙裏の解説(歌手自身が執筆)には、我が国を訪れて多数のコンサートを開いたに留まらず、(日本およびラテンアメリカの音楽を、しかも日西両言語にて)レコーディングまで行ったとある。さらに他のアジア諸国(中国、フィリピン、香港、台湾など)やヨーロッパ(スイスとフランス)も渡り歩いてきたという国際派である。(そういえば同時入手したルス・マベールの "Mi Destino" にも経歴や歌詞等を掲載した冊子が付いていた。遅まきながらパラグアイでもそういう製品が主流になったと考えて良いのだろうか?)当盤には一時帰国中に録音された13曲(ファニー自選)が収められている。遠く離れた祖国あるいは家族・友人達に対する歌手の強い思慕(añoranza)は長きに及んだ演奏旅行の間に積もりに積もっていたらしい。それが当盤のネーミングの由来となっている。(そうなるとポルトガル語の "saudade" に近いだろうか?)
 ということで、それなりに期待を抱きつつ再生を始めたが、1曲目 "Noche aregueña" の歌を聞いてガッカリしてしまった。声が悪い。写真から判断するに結構ベテランのようだが、疲弊してしまったのだろうか?(なおパラグアイの食生活とは無縁でいられたためと想像するが、巨大化の魔の手からは逃れている。)また衰えを隠そうとしたのか思い入れが過ぎたのかは知らないが、大袈裟な抑揚が見事に逆効果を発揮している。(少し前に採り上げたディアナ・バルボーサほどの惨状は呈していないが。)このしゃがれ声と不自然な歌い方は前にも聴いたことがあるとしばし考え、Isabel Pantoja(イサベル・パントーハ)を思い出した。かつて "Mis Mejores Canciones" の中古を買ったが、そのわざとらしい節回しに辟易したためディスクは程なくして売っ払った。とはいえ、彼女は本国のみならず日本でも特にフラメンコ愛好家の間で人気が高いようだ。闘牛士と結婚するも翌年に競技中の事故で先立たれるは、孤児を引き取ろうとしてマスコミを賑わせるはと、とにかくスキャンダルには事欠かない人らしい。「スペインではおかまちゃんたちに口パクで歌振りされることも多い」との記述も見た。
 閑話休題。ということで、当盤も処分の対象となって然るべきではあるが、採るべき点が全くない訳ではない。まず伴奏が秀逸。アルパは2人の奏者が交替で弾いているようだが、共にこれほど美しい音色は初めて聴いた。加えて出来の良い曲が集められている。特に4番目に置かれたタイトル曲 "Mi añoranza" は素晴らしい。サビの "Paraguay, Paraguay..." 辺りで凄味が漂ってくる。"A mi jardín de infancia"(トラック8)や "Amo a mi patria"(同10)もなかなかの名曲だ。それだからこそ、もっと上手い歌手で(あるいは歌なし)で聴きたかったという思いは消えない。繰り返すが歌手は凡庸そのものである。「NHKのど自慢」でも絶対に鐘連打(合格)はあり得ないと断言できる。結局「もっとがんばりま賞」ということで50点。この歌唱力を容認できる人なら音楽を堪能することも不可能ではないかもしれない。誰かいませんかー?

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