アメリカンタ(Americanta)

Canta
1999
Guairá Producciones GP-0015

 私がチャコ在住中に世に活動を始めたと思しき音楽集団があった。(滞在後しばらくしてから耳に付くようになった。)その名もテノンデペ(Tenondépe)、大胆にもグアラニ語で「一番」という意味である。そして彼らのデビュー曲が "Paraguay tenondépe"、文字通り「パラグアイがナンバーワン」というご当地自慢ソングだった。既に述べたように私はノーテンキな調子の音楽にはすっかり辟易していたし、2番の「パーラグアイ、パラッパッパ、パーラグアイ」という人をおちょくっているような(今でも「パッパラパー」と聞こえなくもない)サビに対して「お前らこそアホやないか!」と喚き散らしたくなるほどの怒りを覚えたこともあり、当初はまるで評価できなかった。が、いつしか耳に馴染んでくると「なかなかいいじゃないか」と思えるようになった。持ち歌の大部分は軽いノリを特徴とするが実力は相当なものだ。何といっても声楽アンサンブル(ソプラノ、テノール、バリトンの3人組)が非常に良い。よって、これと他にもう1曲がカセットテープのコレクションに入っている。実はサビで "llora llora pukavy, llora pukavy" と歌われる曲(タイトル不詳)が一番好きだったのだが、録音するチャンスを逃してしまった。なので2000年のパラグアイ再訪時には当然ながらこの音楽集団のCDを求めたのだが、あいにく目次ページで触れた店には置いていなかった。代わって店員が(男女混声グループということならと)薦めてくれたのが、このアメリカンタだったという訳である。女声(Sp)1に男声3(Tr2、Br1)という編成である。
 帰国後に聴いたときは結構愉しめた。が、そのうちに不満を抱くようになった。理由は先とは対照的にコーラスがイマイチだったからである。テノンデペの3人の声は結構クセがある。ソプラノのおばちゃんはホンワカした感じで決して美声ではないし、男性2人は声の高さはもちろん太さも全く異なっていた。そんな彼らが誰一人として埋没することなく、それぞれの個性を主張しつつ美しいハーモニーを作り上げていたのが見事だった。「1+1+1=5」といったところか。一方アメリカンタはどうかといえば、ソロパートは決して悪くない。テノンデペと比べれば各人の線は細いけれども、技術的には皆しっかりしている。南米音楽の通販サイトでも褒めていたと記憶しているが、特に紅一点のZunilda Ramos の歌唱はなかなかに魅力的だ。(テノール2人もまずまず。バリトンは少し落ちる。)ところが合唱になると途端に汚く聞こえてしまうのである。彼らの音程が微妙に甘い(時に僅かながら下にズレる)ことが災いしているように思う。足の引っ張り合いによって「1×4=3」ぐらいにしかなっていないという印象である。ここでクラシックの室内楽に喩えてみると、個性のぶつかり合いが聞き物だったテノンデペがピアノ三重奏曲なのに対し、比較的粒揃いの声を揃えたアメリカンタは弦楽四重奏曲に近いだろうか。ならばアンサンブルの精密さが生命線のはずである。それに問題があるのだから痛すぎである。が、明らかにそれだけではない。どうも四重唱における対旋律の作曲に問題があるように思われて仕方がない。もしかすると三度や五度以外の和音も採用しているのだろうか? そうだとすれば彼らの責任ではない。4人が同時に歌えばハーモニーが混濁するのはむしろ当然である。不協和音を生じずに済ますのが困難であるならば、響きを整理するためのリストラも検討すべきだったかもしれない。
 ということで完成度はもう2つぐらいだが、比較的新しいパラグアイ音楽(ポルカ主体が14曲(ただしトータルタイムは37分台)も聴けるのだからそれなりの満足感は保証されている。なので70点。なお、実際入手できるかは知らないが、(そして私は手を出す気は全くないが)HMV通販サイトで検索すると2003年にリリースされたらしき "Canta Vol. 2" (GP-0024)が出てくる。(追記:最近見つけたGuairáのサイトに掲載されている "Vol. 2" のジャケットには3人しか写っていない。どうやらWalter Garcíaというのを切ったらしい。本当にやるとは!)

おまけ
 パラグアイ音楽の総合サイト(www.musicaparaguaya.org.py)に "Nde tapere" という曲がアップされている。比較的新しい音源(2004年11月?)のようだが、彼らのコーラスが不揃いであるという印象は変わらない。

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