ANA|JOSÉ|NACHO
1998
BMG LATIN 74321 56659 2

 2枚組に全30曲を収録。兄のJosé María(José)と弟のIgnacio(Nacho)による曲を交互に配しているのは "Aidalai" と似ているが、そちらが1箇所パターンを崩していた(トラック2と3でJoséの曲が連続していた)のに対し、当盤ではローテーションを厳格に守っている。メカーノ紹介ページに登場していただいたNさんは当盤について「久々のメカーノをじっくり聴いてしまいました」と自身のサイトでコメントされている。なので私も期待して聴いた。(こういう前振りの場合、大抵は「だが」「しかし」といった接続詞が続くのであるが・・・・)
 DISC1の最初に収録された "Cuerpo y corazón" は心から愉しめた。久しぶりにオリジナル曲を聴いたという満足感は確かに格別である。ところが聴き進むうちに違和感を覚え始める。それは2枚目の再生でも同じ。(遅ればせながらであるが、この2枚組ではそれぞれのディスクの冒頭に新曲を4曲ずつ収めている。このうち "Aire" は既発曲だが、 "Nueva versión" ということだ。ライヴ音源である。また、DISC2のトラック6 "Barco y venus" も "20 Grandes Canciones" に収められていたスタジオ録音ではなく、おそらく "Aire" と同じコンサートからの音源と思われる。)繰り返しになるが「何かが違う」のである。
 理由はカンタン、取っつきにくいのだ。技巧に走っている、造りがゴテゴテしているという印象は前作(といっても7年前だが)の "Aidalai"を大きく上回る。何よりも "Descanso Dominical" や "Aidalai" に収録されていた何曲かのように自然と口をついて出てくるメロディが1つとしてない。いくら繰り返し聴いてもそれは同じ。これには悲しくなった。メロディラインの複雑化はメカーノの音楽性(旋律はあくまでシンプルに留め、色付けで勝負する)とは相反するはずではないか? まるでベートーヴェンがモーツァルトのスタイルを真似するようなものだ。芸域を拡張しようという心意気は買えなくもないが、持ち味を殺してしまっては本末転倒だろう。
 こういうのを聴くと、この音楽集団が "Aidalai" 以降コンサートからもレコーディングからも長いこと遠ざかってしまった理由が解ったような気がする。トローハのソロアルバムのページに記したように、メカーノはこれ以上は考えられないという最高の組み合わせによる音楽集団だった。その彼らが "Descanso Dominical" という大ヒットを飛ばし、次作 "Aidalai" では様々な趣向を凝らしてさらなる高みを目指そうとした。ところが、技術的進歩が音楽の魅力としてストレートに反映されないことを知って愕然としたのではなかろうか。その行き詰まり感が彼らを活動停止にまで追い込んだのである。ただし、その間も決して手をこまねいていた訳ではなく、あらゆる手段を講じて "Descanso Dominical" 以上の作品を世に送り出そうとした。ようやくにして完成したのが当盤収録の7+1曲である。ところが結果はといえば・・・・(後述するが、それらの不人気には目を覆いたくなる。)彼らの不運は "Descanso Dominical" で早くも最終形に到達してしまったことにあるかもしれない。よって、それを越えようとして煮詰まってしまったのも当然の帰結という見方もできよう。そういえば、別ページにも一部掲載したKさんへの私信に私はこんなことを書いていた。(前後関係不明の部分は無視してくれい。)

 その後に書いておられた「普遍性」と「今日性」について改めて考えてみま
 した。マドレデウスにしてもポンテスにしても、魂の深いところを突いてく
 るという意味で「普遍性」を十分に備えていると思います。けれども、いか
 に作品が高い水準を保っているとしても、彼らが大して変わりばえのしない
 アルバムを定期的に出すだけであったとしたら、私は掲示板で毒づいていた
 かもしれません。(そして悶着を起こしていた?)対照的な例を挙げれば、
 メカーノは大ヒットした「スペインの玩具箱」の延長線上にあるとしか思え
 ない「アイダライ」を発表した後にグループとしての活動を休止し、98年の
 再結成直後こそ少し期待を抱かせたものの、結局は新しい境地を示すことが
 できずに事実上解散となりました。そして、私には「スペインの玩具箱」後
 に彼らが急速に魅力を失っていったという印象が残りました。もっとも今に
 なってみれば、このままダラダラ続けるのは(仮に人気を保てたとしても)
 自分たちのためにもならないし、そしてファンに対しても失礼であると自覚
 していた彼らが「見識」を示したという見方もできるのではないかと考える
 のです。

そうなると(これを認めるのはちょっと悔しいが)、変貌を繰り返しつつスケール感を増しているマドレデウスとは元から器が違っていたということだろうか? あるいはメカーノの音楽が最初から蜻蛉のように短命を宿命づけられていたのかもしれない。とりあえずそうしておこう。
 さて、ならば当盤に完全に失望したのかといえば、ありがたいことにそうではなかった。本題に触れる前に述べておくと、国内でも発売された2枚からのピックアップは概ね妥当。代表作はほぼ網羅されていると思う。私的には「何でこれが入っとらんのや?」と喚き散らしたくなるような選択漏れ(例えば "Tú" や "J.C.")もない訳ではないが。
 ここから述べたいのは"Descanso Dominical" 以前の作品である。既に "20 Grandes Canciones" 収録曲の大半に落胆させられたことは向こうのページに記した通り。"Aire" は新バージョンになっても全然名曲とは思えないし、 "Barco y venus" はライヴになって騒がしさが増しただけである。"Maquillaje" とか "Ay, qué pasado" などは改めて聴いても出来の悪さに腹が立ってくる。こんな箸にも棒にもかからない愚作をわざわざ選んだ制作者に対しても同様。ところが、"Me cuesta tanto olvidarme"、"Hijo de la luna"、そして "Cruz de navajas" の3曲にはホロッときてしまった。 "Descanso Dominical" のラストを飾っていた "Fábula" と同じく、これらはまさに「愛すべき珠玉の小品」である。(実際には4分台、5分台の曲もあり「小品」扱いは不適当かもしれないが、簡素の美を極めているためそう呼びたくなったのである。うち、"Cruz...." を除く2曲については大いに驚かされることがあった。後に「おまけ」として採り上げよう。)
 ここでひとまず採点しておく。「メカーノは全く聴いたことがないので、ひとまずいろんな時代の音楽を聴いて取っかかりとしたい」という人にはそれなりの価値がある。80点。「既に国内盤は持ってるよ」という人にとって魅力的な曲は少ないはずだから60点。(いくら初期の名作3曲が含まれているとはいえ、2倍ほどもある駄曲のマイナスをチャラにすることはできない。)ここでも平均値を採用して70点とする(またしてもえー加減)。なお、最初から1点だけ買うつもりの人は、迷わず "Descanso Dominical" に手を伸ばすことをお薦めする。

追加情報
 この2枚組は複数の国(最近ではチリ)で製造&発売されているが、唯一フランス盤は同タイトルながら17曲入りの1枚もの、しかも以下に挙げるように仏語バージョンが8曲も採用されているらしい。

  1. Une femme avec une femme (Mujer contra mujer)
  2. Dis-moi lune d'argent (Hijo de la luna)
  5. Le club des modestes (El club de los humildes)
  7. Toi (Tú)
  8. Une histoire à trois (El uno, el dos, el tres)
  9. Corps et coeur (Cuerpo y corazón)
 10. Le 7 septembre (El 7 de septiembre)
 16. Frère soleil, soeur lune (Hermano sol, hermana luna)

これらのうち、"Le club des modestes"、"Corps et coeur"、および "Frère soleil, soeur lune" の3曲は他盤では聴けないという話である。(ふと気が付いたが、"Corps et coeur" (コール・エ・ケール) は西語タイトルよりも断然語呂が良いから、こちらの方がオリジナルかもしれない。)何にせよ、"Une femme avec une femme" を筆頭に、これまで気になりつつも未聴だったトローハの仏語歌唱を一網打尽にできるというのは結構魅力的である。入手は容易ではなさそうだが・・・・と思っていたところ、amazon.frにて "Comme neuf" (ほぼ新品)が7.99ユーロで売られているのを発見。ただし商品自体より高い8.99ユーロの送料&梱包手数料が気に食わない。たった8曲のために2500円以上払うのも馬鹿らしい。(このところの円安ユーロ高のせいだ。)ここでポピュラーの方はあくまで既所有のディスクを対象とするという基本方針(←そんなもんいつ立てたんや?)を再確認した。(時には批評を書くためにCDを購入したこともあった)ブルックナーと違って欠けている品にまで無理して手を伸ばす必要は全然ない。よって見送る。mp3ファイルを落とせる海外サイトもあるが、音質が悪そうだし支払手続きが面倒なので止めた。

追加情報に追加
 書き忘れていたが、仏アマゾンで "ana jose nacho" をキーワードにタイトル検索しても当盤と同内容の2枚組しか出てこない。どういう事情かは知らないが、上記の仏盤は "Best of Mecano" という英語タイトルにて販売されている。(英米のアマゾンでも同様の扱いだが、ディスク枚数と収録曲数の間に整合性がなかったりするから困る。この種の混乱は他の通販サイトでも生じているようだ。)それはともかくとして、西語トラックとして採用されたのは以下の9曲である。

  3. Dalai Lama
  4. No hay marcha en Nueva York
  6. Otro muerto
 11. Stereosexual
 12. Esto no es una canción
 13. El mundo futuro
 14. Los piratas del amor
 15. El blues del esclavo
 17. Aire (nouvelle version)

旧盤からの再録は2曲(トラック3および4)のみである。また仏語の方も(新作は別として)西語版の出来から想像する限り高水準の曲を揃えており、本文中で槍玉に挙げたような駄曲は全く含まれていないと判断しても差し支えなかろう。敢えて1枚に留めたところに制作者の見識が現れていると思えなくもない。(そうなるとますます不可解なのが先のネーミングなのだが・・・・)

さらに追加(2007年2月記)
 先日、iTunes Music Storeで何気なく "mecano" で検索したところ、件の仏盤に収録されていると思しき17トラックがズラッと出てきたからビックリ。(さらに驚いたことに他盤は一切挙がってこない。どういうことだろうか? まさかストア内部の人間が本ページを見た訳でもあるまい。)曲名表示のみならず試聴でも仏語が確認されたため、すぐさま目当ての8曲をカートに入れてダウンロードした。¥150×8=1200円ナリ。仏アマゾンから中古盤を購入する場合の半額以下で済んでしまった。大ラッキー!(比較的送料の安い米アマゾンに入れておいたpre-orderは即時取り消し。実は上限10USDというダメモトの買い注文だったから売り手が現れなくて当然だった。)ただし最後に落とした "Frère soleil, soeur lune (Hermano sol, hermana luna)" に問題発生。2分過ぎから「ザッザッザッザッ・・・・」というノイズがひっきりなしに入る。そこで「メールサポート」のページから問い合わせてみたところ、翌日に「再度ダウンロードできるようにしたから試してほしい」との返事が来た。だが結果は同じ(同じ箇所にノイズ混入)。つまり転送中のトラブルではなく、ストア側の保有しているファイル自体に欠陥ありということである。再度の対応にて1曲分のソングクレジット(好きな曲をダウンロードできる権利)を発行してくれることになったから、こちらとしてもまあ不満はない。もっとも再購入は4週間待てという指示が出ている。それまでに解決(修正もしくは削除)するという話だから来月まで我慢するとしよう。
 ここからは新規入手の仏語版(F)と既に慣れ親しんだ西語版(E)との対決という形でコメントしてみたい(ボクシング風の採点付き)。なお、伴奏(器楽編成やテンポ、強弱の付け方など)については両言語によるバージョン間に大きな違いが認められなかったため、歌唱のみを比較対象とした。(実際のところ、詞のメロディへの乗り具合に起因すると考えられる印象には少なからぬ差異が生じていたのである。)

・Une femme avec une femme ─ Mujer contra mujer
 仏語による鼻の詰まったような歌唱も決して悪くない。というより部分的には西語版を凌駕しているようにも聞こえる。しかしながら "une femme avec une femme" と歌われる直前、すなわち「ミ(1オクターヴ跳躍して)ミレドレミードレドー」(9音符)というメロディに付けられた歌詞が "a deux, au ras du sol"(6音節)なのはいただけない。「アドゥーオーラーデューソール」のように間延びしてしまうから。(続く締めもちょっと甘い感じだ。)同箇所に "volando a ras del suelo" という8音節を充てた西語版には字(音節)足らず感がほとんどなく軍配が上がる(F9 ─ 10E)。

・Dis-moi lune d'argent ─ Hijo de la luna
 語呂の良し悪しでは差が付かないが、西語の方が躍動感のあるメロディとの相性が良い。仏語版が "hijo de la luna" だけを残したのもどこか引っかかるが、本当に弱点を認めていたのだろうか?(F9 ─ 10E)。

・Le club des modestes ─ El club de los humildes
 バックコーラスも含めて仏語版の方が抑え気味と聴いたけれども優劣とは直結しない。どちらを採るかは好きずきの範囲内だろう。とにかく西語でパッとしなかったものは仏語で聴いても冴えないという印象(F10 ─ 10E)。

・Toi ─ Tú
 単独で歌われていると違和感はさほどないものの、サビの「トワーーーーーートワトワートワー」の畳み掛けになるとやはり字余り感が耳に付いてしまう。仏語にもちゃんと二人称代名詞(親称)の "tu" があるというのに何故それを回避し、代わって強勢形の "toi" を持ち出したのかが全く理解できない。「チューーーーーーチュチューチュー」も結構素敵だと思うけど(F9 ─ 10E)。

・Une histoire à trois ─ El uno, el dos, el tres
 仏語版の前半部はいかにもモタモタしていると聞こえてしまうため減点対象となる。実は西語版も字余り感という点では似たり寄ったりなのだが、歯切れが良い分だけ上回っている(救われている)。ただし展開部に入ると仏語が一気に盛り返す。「月の子」とは逆に気怠い感じの曲調との相性の良さを発揮しているためである。西仏ハイブリッド版を作れば印象は格段にアップするはず。何にしても形勢互角としておくのが無難(F10 ─ 10E)。

・Corps et coeur ─ Cuerpo y corazón
 やはり「体」と「心」が意味だけでなく音としてもセットになっている仏語版の方が先に作られたに違いない。そう信じざるを得ないほどにも仏語版の完成度は高い。メロディに寸分の隙もなくハマった "Je ne sais pourquoi ni à quelle heure" を聴いて思わず拍手を送りたくなった。(これと比べたら "No sé el momento ni la razón" は強引に詰め込んだようで分が悪すぎ。)こんな素晴らしい曲だったとは! いま私がメカーノの全作品から好きな順に選ぶとしたら少なくとも10位以内には入ってくるだろう(F10 ─ 8E)。

・Le 7 septembre ─ El 7 de septiembre
 全体としての印象は仏語版が上。ダラダラした感じの曲と合っているからである。ところが歌詞の最重要部分(11月7日、私たちの記念日)でダメージを負った。西語では "El siete de septiembre es nuestro aniversario" で何の問題もない。ところが仏語歌詞は "Et quand le sept septembre, nous fêterons notre anniversaire" だが、音楽が "nous" でいったん切れてしまう(意味上の切れ目と一致しない)のが痛い。"notre anniversaire" もちょっと無理矢理っぽい。手数こそ上回っていてもカウンターはしっかり喰らっているようなものか。攻撃的姿勢と有効打のいずれに重きを置くかはプロのジャッジでも迷うところ。なのでイーブンとしておく(F10 ─ 10E)。

・Frère soleil, soeur lune ─ Hermano sol, hermana luna
 タイトルの字面から何となく仏語版の方がオリジナルではないかと思っていたが、そうともいえないようだ。(ついでながら両版の歌詞は必ずしも対応していない。)それはともかく、仏語歌詞を掲載しているサイトではことごとくサビの出だしを "Mon frère soleil, ma soeur lune" としているが、何度再生しても "Frère soleil, douce soeur lune" にしか聞こえない。どういうことか? しかしながら、それはメカーノに落ち度があったということではないし、もちろん優劣とも無関係である。続く "Que jamais rien ne me sépare de mon dieu" の美しさに思わず溜息が出てしまったから、最後はしっかり仏語版が取った(F10 ─ 9E)。

ということで最終結果は「Français 77 ─ 77 Español」となった。仏語版が前半の劣勢を跳ね返して何とかドローに持ち込んだ格好である。(←八百長試合やな。)

おまけ
 おそらくはSerrano氏の新サイトと思しきwww.mecano.net/websiteのFOROS(「中央広場」の意だが要はBBS)コーナーで今年(2006年)メカーノ作品の人気投票が行われている。(ついでながらトップページからは各メンバーのサイトに飛ぶことも可能である。)実際には5月11日にある人が自分の考えるベスト5(順位付き)を挙げ、他参加者の意見を求めたことが発端となった。ある程度レスが付いたところで(7月6日から)別の人が「1位を5点、2位を4点(以下略)」として集計し始めたのである。9月19日付の(それが最終か否かは解らないが、ひとまず最新)結果によると、有効投票者数65名によって75曲がリストアップされている模様だが、以下にトップ10を載せておく。なお数字は左から総得点、その曲に投票した人数、同じく1位票を投じた人数を示す。

  1. Me cuesta tanto olvidarte 74-20-9
  2. Hijo de la luna 68-23-6
  3. Mujer contra mujer 49-18-2
  4. Aire 47-16-2
  5. Cruz de navajas 46-14-3
  6. La fuerza del destino 42-14-3
  7. Naturaleza muerta 40-11-6
  8. No es serio este cementerio 39-11-2
  9. El 7 de septiembre 33-11-1
 10. "Eungenio" Salvador Dalí 33-9-3

いやはやビックリ。私が最高傑作と考えている "Mujer contra mujer" は3位に留まり(しかも4位以下とは団子状態)、"Me cuesta tanto olvidarte" と "Hijo de la luna" には大きく水を空けられているではないか! その次に高く評価している "Tú" に至っては24位(13-5-0)に甘んじているという有様。(ちなみに、かつてのネット知人Oさんがイチ押しされていた "La fuerza del destino" は6位である。)
 それにしても上位2曲の人気は圧倒的である。特に目を引いたのが1位票の多さ。既に述べたように私はこれらを名曲と認めるに吝かではないものの、これほど強力な支持を集めているとは思いもしなかった。(ついでに愚痴っておくと、"Aire" の4位は絶対に納得いかん。)いずれも1986年にリリースされた "Entre el Cielo y el Suelo" (正式発売されたオリジナルアルバムとしては4作目で "Descanso Dominical" の前作にあたる)の収録曲である。ここで各曲の所属を調べてみたところ、4位が "Ya Viene el Sol"(1984年、3rdアルバム)、3&6&10位が "Descanso Dominical"(1988年、5th)、7&9位が "Aidalai"(1991年、6th)、そして残る4曲(1&2&5&8位)が "Entre el Cielo y el Suelo" だった。(本文中で「珠玉の小品」の1つに挙げた5位の "Cruz de navajas" も含まれている。)
 ここで別に集計されたアルバムごとの積算値も示しておく。(なお、3種の数値の意味は先と同じだが、あくまで各曲の値を単純に加えたものであり、アルバムそのものの投票結果ではないことに留意されたし。)

 Mecano 81-22-8
 ¿Dónde Está el Pais de las Hadas? 52-21-3
 Ya Viene el Sol 102-37-5
 En Concierto 8-2-0
 Lo último de Mecano 5-2-0
 Entre el Cielo y el Suelo 251-78-20
 Descanso Dominical 227-80-11
 Aidalai 190-64-13
 ANA|JOSÉ|NACHO 44-14-4
 Ineditas 15-5-1

ライヴ盤のEn Concierto(1985)、ベストアルバムの "Lo último de Mecano" およびDVDボックスの "Ineditas" にはオリジナル曲がほとんどないから点が少なくて当然。人気のバロメーターには全くならない。それにしても "ANA|JOSÉ|NACHO" の低空飛行は見るに忍びない。曲単位で見ても "El club de los humildes" の13位(23-6-4)がやっとという体たらくである。
 さて、こうしてみるとやはり "Entre el Cielo y el Suelo" の獲得ポイントが "Descanso Dominical" を1割ほど上回っているのが判る。(1位票の合計が約2倍となっているのは、ランキングの上位2曲が15人から1位指名されているためである。)国内のファンサイトでも「このアルバムが一番好き」というコメントを見たことがあるが、こうなると全く無視する訳にもいくまい。でネットで調べてみた。
 通販サイトで曲目リストを見ると、"Me cuesta tanto olvidarte" (全12曲)はトラック6に収録されている。実は出だしの歌詞は "Entre el cielo y el suelo hay algo"(天と地の間には何かがある)である。つまり、それがそのままアルバム名に採用されたということである。挿入された場所がほぼ折り返し地点(ちなみに復路の最初は "Cruz de navajas")であることも考えると、メカーノがこの曲をメインに位置づけていたのは間違いない。私はこれを聴いて動詞 "costarle" がこういう場合にも使われることを初めて知ったが、破局の辛さに身悶えするようなトローハの切ない歌唱は掛け値なしに素晴らしい。(特にラストの反復には泣けてくる。)一方、トラック3 "Hijo de la luna" だが、確かに3拍子による軽快なテンポ、そして耳にも優しい音楽ながら、私は "Me cuesta tanto olvidarte" ほどの感銘は受けなかった。ところが、この曲はファンのみならずプロからも非常に高く評価されているようだ。何とカヴァーは両手の指の数にも及び、ポピュラー歌手のみならず故モンセラート・カバリエも録音していた。最近では2000年にサラ・ブライトマンが "La Luna"(邦題「ラ・ルーナ」)で歌っていたのも(私は未だ聴いていないが)記憶に新しい。(ちなみに彼女はメカーノが余程お気に入りらしく、"Naturaleza muerta"、"Tú" に続いて3度目のカヴァーである。)ここで「月」から "Hermano sol, hermana luna" を思い出す。詞に "leyenda" という単語が出てくるこの曲と同様、あちらも空想的な内容を愛らしく歌い上げた佳曲である。"Fábula" や "Naturaleza muerta" もそうだったから、「メカーノの神話・伝説系音楽にハズレなし」という格言は成立するかもしれない。
 そんな訳で注目すべき点の少なくない "Entre el Cielo y el Suelo" であるが、iTunes Music Storeで試聴したところ、"ANA|JOSÉ|NACHO" に採用されなかった他曲の印象がイマイチだったため購入には至らなかった。激安中古でも見つけたら考えてもいいが・・・・
 最後に人気投票に関してもう少し述べて終わる。件のスレッドには作者別(つまりカーノ兄弟のどちらの手になったか)による集計も出ていた。

 José María Cano 533-171-41
 Ignacio Cano 442-154-24

総得点ではJoséがNachoの約1.2倍で極端な違いはない。投票の合計(約1.1倍)にしても同様。ところが1位票になると1.7倍もの開きが出ている。ちなみにトップテンの作者をチェックしてみたら、何と6位と9位以外ことごとく兄であった。つまりファンの嗜好は圧倒的にJoséの作風へ傾いていたということになる。とはいえ、それが両者の実力を反映した結果であるとは思っていない。完成度にそれほどの差を認めることができないからだ。(例えば "J.C." が "Mujer contra mujer" および "Tú" とともに「メカーノ三大名曲」を形成する資格があると考えたりすることもあるし、この項を執筆するまで "La fuerza del destino" と "Naturaleza muerta" の作り手を逆だと思っていた。)
 Joséの作品はアコースティックなサウンドが主体で、タンゴやサルサ、フラメンコにボサノバにルンバといった既成ジャンルの要素を積極的に採り入れている。つまり、どことなく馴染みのある音楽に仕上げている。一方、Nachoの方は「シンセサイザー、コンピューターなどを使いこなす天才肌」(中原仁の "Aidalai" 解説)だけあって、まさに「テクノ全開」とでもいうべき斬新なスタイルとなっている。それが20世紀末の聴き手には兄の作品ほど受け入れられなかったに過ぎない。要するに時代を先取りしすぎていたということだろう。(実は人気の差が不和を招いて活動停止→解散に至ったとは思いたくないから、こんな文章を起こしてみたという次第である。考え過ぎなのかもしれないが。)

おまけ2
 やっぱり "Entre el Cielo y el Suelo" の方が "Descanso Dominical" よりも傑作であるかのような扱いになっているのが私は気に食わない。こうなったら意地だ。独自に集計することにした。とはいっても、目算も立てずに取りかかるような馬鹿な真似はしない。もちろんイカサマをしようという訳でもない。いかに突出した曲が複数あったとしても、それだけを根拠にアルバムの価値を決めるのは好ましくない。やはり総合的評価に適した指標によって比較を行うべきであると判断し、この人気投票で挙がった65曲をアルバムごとに振り分けて順位の平均値を求めてみた。(オリジナルの曲数が極端に少ない "En Concierto" と "Lo último de Mecano" は省いてある。)

 Mecano(9/12) 40.2・(49.16・)
 ¿Dónde Está el Pais de las Hadas?(8/12) 50.875(59.25)
 Ya Viene el Sol(9/10) 41.7・(45.2)
 Entre el Cielo y el Suelo(10/12) 33(40.16・)
 Descanso Dominical(13/14) 25.846153・・・・・・(29.428571・・・・・・)
 Aidalai(12/13) 25.83・(29.692307・・・・・・)
 ANA|JOSE|NACHO(7/8) 49.142857・・・・・・(52.5)

アルバム名の直後にある括弧内の分数は、分母が収録曲数、分子がランキング入りした曲数を表しているが、後に出たアルバムの方がランク入りの割合が高いという傾向が認められる。("ANA|JOSE|NACHO" については新作の8曲のみを分母としたが、唯一挙がらなかった新バージョンの "Aire" も所詮は焼き直しであるから、実質的には100%と考えて良いだろう。)その次にあるのが問題の平均順位である。(割り切れない場合は循環小数の桁数を "・" で示してある。)"Descanso Dominical" と "Aidalai" の2作が約25で抜けており、33ジャストの "Entre el Cielo y el Suelo" は3番目、以降2作ずつが40近辺および50近辺の値を取っている。(参考までにランク外、つまり1票も入らなかった曲を全て76位(タイ)として同様に計算した平均値を括弧内に入れたが、採択率上位の2作と他盤との差が開いただけで傾向自体に大きな変化は見られない。)これで明らかなように、コンスタントに支持を集めているのは国内盤も出た2作品であるといえる。(なお、"Descanso Dominical" で唯一ソッポを向かれたのが "Fábula" で、これは曲の規模を勘案すればやむを得ないのかもしれないが、一方 "Aidalai" で "Bailando salsa" が無視されているのは「メカーノのサルサなんぞ聴きとうないわい」というファンの気持ちが表れているようで思わず考えさせられる。)
 この際、人気上位3作に絞ってもう少し詳しく解析してみることにした。

 Entre el Cielo y el Suelo(1, 2, 5, 8, 37, 38, 39, 65, 66, 69) 33±27.65(0.84)
 Descanso Dominical(3, 6, 10, 15, 18, 19, 27, 30, 31, 36, 41, 49, 51) 25.85±15.65(0.61)
 Aidalai(7, 9, 11, 16, 23, 24, 28, 33, 34, 35, 44, 46) 25.83±13.18(0.51)

各アルバム直後の括弧内にある数列はランキング入りした曲の順位を上から並べたものである。"Entre el Cielo y el Suelo" では4番目と5番目の間、および7番目と8番目の間のギャップが極めて大きいことが読み取れる。「傑作」「そこそこ」「駄作」にハッキリ分かれてしまっているのである。続いて「平均値±標準偏差(変異係数)」を載せた(小数点以下2桁を表示した数値については第3桁を四捨五入)。これを見ても順位のバラツキの大きさが "Entre el Cielo y el Suelo" > "Descanso Dominical" > "Aidalai" であることは明らかである。つまり、"Entre el Cielo y el Suelo" は「三振かホームランか」タイプに特徴づけられる訳であるから5番(できれば気楽に打席に入れる6番あたり)を打たせたい。アベレージヒッターの "Aidalai" は3番、そして確実性と長打力を兼ね備えた "Descanso Dominical" こそが4番の適任者であると結論できる。(ついつい悪乗りして宇野功芳センセイ(クラシック音楽評論家)のパクリになってしまった。)それにしても3番と4番の打率(平均順位)が僅差なのは全く予想外だった。
 ということで、ひとまずは自分にも納得のいくような客観的データを示すことができて満足であるが、件のスレッドが更新されたら当然ながら本ページにも影響が及ぶ。順位の変動だけならまだしも、記述にまで大幅な変更を迫られるような事態が度々生じると考えたら気分が滅入ってきた。なので、金輪際あそこは見ないように(あるいは見て見ぬフリをすることに)しよう。(→追記:いつの間にかwww.mecano.net/websiteの中身がスッカラカンになってしまっていた。各メンバーのサイトは残っているのだが・・・・なぜだろう?)

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