The Best
1992
Sony Discos/Globo Records CDT-80871/2-470603

 71分超という長時間収録は嬉しいが、全20曲中1曲を除いてポップスだった。そういうCDがベスト盤とされている以上、そちらのジャンルがガブリエルの本職と考えない訳にはいかない。遅ればせながら彼女が「ランチェーラも歌うポップス歌手」であることに気が付いたという次第である。(日本ではポップスやロックの歌手が演歌や民謡をもレパートリーにするという事例はほとんど思い当たらないが、メキシコでは決して珍しくないということも後で知った。)
 ところが、それらポップスが "Mi México" の虜となった耳にはどうにも物足りない。(もちろん音楽とは直接関係ないが、通販サイト掲載のアルバムジャケットにしてもポップスの方はあざとさが感じられて気に入らない。)彼女とそれ以外の作曲家による曲が半々という構成だが、いずれも音楽のクオリティは十分高い。メロディは親しみやすいし、電気楽器を使用していても決してうるさくならないアレンジも合格点。(その条件をクリアしていない限り私は絶対に70点以上やれない。)だが、私の心を激しく揺さぶるような曲は残念ながら1つとしてなかった。コンサート収録のライヴ音源もいくつか採り入れられているが、聴衆の大変な盛り上がりようが却って寂しかった。トラック7はあの "Y aquí estoy" である。"Mi México" には "versión ranchera" の但し書きがあったから、どうやらこっちの方がオリジナルらしい。だが、あの切なさで胸が一杯になるような感じは何としても味わうことができない。ガブリエルとしてもメロディがこんなにスムーズに流れてしまっては情感を込めようにもそんな時間的余裕はないだろう。それは他曲でも同様で、容れ物(伴奏)から溢れ出してしまわないよう抑制しているように聞こえてしまうことも時にあった。
 こんな風では充実した評など書けっこないから早めに切り上げるべきと判断した。要は相性の良し悪しがジャンルによって極端に出てしまうということかもしれない。(ただし前に付ける所有形容詞は "mi" としておく。さすがに "su" は不遜と思われるから。)とはいえ、凡庸なポップス歌手によるアルバムよりは断然上出来であるので80点は下らない。

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