Okinawa Latina(オキナワ・ラティーナ)
1993
日本フォノグラム PHCL-5006

 トラック1 "Gambateando"(ガンバッテヤンド)が彼らにとって正真正銘のデビュー曲らしいが、メロディは平板で音楽自体は大したことがない。"O Espírito da Paz"(マドレデウス)のページ下に書いたことと矛盾するような気もするが、これはあくまで詞を愉しむためのものだと思う。外国人労働者に勇気を与えるためのいわば応援歌だが、誰であれ気分が滅入っている時に聴くには最適であろう。「ガンバッテヤンドー」の連呼に合わせて自分も口ずさんでいるといつしか元気が出てくる。お試しあれ。
 やはり1曲措いて流れてくる "Tus ojos son dos diamantes"(瞳はダイアモンド、ただし松田聖子のカヴァーではないので注意)および6曲目 "Okinawa mi amor"(沖縄ミ・アモール)の方が音楽の質ははるかに高いと私は考えている。共に結構長い曲だが、決して間延びすることなく聞かせてしまうのは曲の完成度に加えて歌手の実力のお陰である。何にしてもこれら2曲、それに記念碑的性格の強い "Gambateando" が最初のベスト盤に採用されたのは極めて妥当である。
 ファンの方には申し訳ないが、トラック2457についてはほとんど書くことがない。普段は飛ばしているから(イントロン扱い)。4曲目 "Summer night angel"(サマー・ナイト・エンジェル)の透き通るような美声が印象に残ったぐらいか。(この女性歌手については他ページで触れることにする。)デビュー盤ゆえ、こういった曲が紛れ込んでいるのも一種の愛嬌かなと思っていることをここに告白する。
 8曲目 "Jingo"(ジンゴ)と次の "Bamboleo"(バンボレオ)はカヴァーであるが、CupiD掲載のコメント「個性がなく今ひとつ」に同感である。前者はオリジナルを知らないが喧しいだけで良さがサッパリ解らない。後者については演奏自体は悪くないものの構成に気に入らない点がある。(と自分では思っているので、フリオ・イグレシアスのディスク評で説明するつもり。)
 さて、私の耳を釘付けにした "El cóndor pasa"(コンドルは飛んでいく)だが、何度聴いてもこの伸びのある声にはホレボレする。それを心ゆくまで堪能できるのは、ギターの弾き語りという声を邪魔しない形式によるところが大きい。以下、城間の歌のどこが桁外れに優れているのか述べてみる。
 別に鳥つながりという訳ではないけれど、「白鳥の歌」(スワン・ソング)という言い回しを時に目にすることがある。イソップ童話が由来らしい。(シューベルトの最後の歌曲集(死後まとめられた遺作集)にもその題名が与えられている。)白鳥は滅多に鳴かないのだが、死ぬ間際になって出す声は(私は聞いたことがないけれど)何ともいえず美しいのだという。そこから連想するのだが、人間も切羽詰まった時に出す声は誰しも素晴らしいに違いない。何も断末魔の叫びでなくとも、口を大きく開けて腹の底から出すようにすれば、普段悪声と思っている人でもそれなりに「♪ええ声〜」(←岡けんた風)になると私は信じている。とはいえ、発声可能な最高音(裏声除く)はさすがに無理だ。ほとんど喚いているだけで細かい表情を付たりするのは非常に困難である。ここで私が指しているのはそれより少し(2度か3度)下の音を出す場合である。多くのプロ歌手の唄声を聴いているが、やはり最も印象に残るのはその辺りの声域で歌われるフレーズ(最高音は使われても一瞬だけ)である。ところが城間は違う。それに留まらないのだ。
 この曲では1分33秒の "morir" および1分47秒の "quedará" で最高音を迎える。リスナーの多くはそれらの少し前から始まるサビのメロディに感銘を受けると想像する。それは正常な反応である。が、私はその後に2度出てくる "runbo al sol" の "sol" に痺れてしまった(繰り返し部分も同じ)。中音域でここまで美しく、しかも聴き手の腹にズシリと応えるような声を出せる城間は絶対に只者ではない。(実際こういう歌手はそうはいないように思う。相当高いところか、さもなくば低いところで聞かせるというのは別に珍しくないが。)展開部で激しくなってそのまま "El humahuaqueño"(花祭り)に突入する。(なお、CDケース裏には "EL HUMAHUAQUENO" とある。全て大文字の場合はアクセント記号同様、"Ñ" のヒゲも省略可能という理由でそうしたのかもしれないが、ブックレットの "El Humahuaueno" は弁解の余地なしだ。腹立たしいことに今再生しているiTunesの曲名表示もそうなっている。ここで気が付いたが、このトラックは "El cóndor pasa" しか歌詞と対訳が載っていない。この手抜きもケシカラン!)こうして書いていると2曲の接続が少々強引じゃないかと言いたくなってくるけれども、聴いているとそんなことは脳裏からスッカリ消え去ってしまう。それくらい説得力のある歌唱なのだ。
 最後にボーナストラックとして "Okinawa mi amor" の西語バージョン。(ここでも何故か歌詞が載ってない。)メカーノの "Hawaii-Bombay" と並ぶ昼寝用BGMの名曲などと書いたはずだが、ここでは終曲後に波の効果音が何と11分以上も収録されている。リピートで流していたら快い眠りに就けることは請け合いだ。(まさかそれを保証するために?)
 私にとっては凡庸と感じられた曲が相当数含まれているし、多分に荒削りなところもあった。だが、この音楽集団の輝かしい未来を予見するには十分というべき出来映えであるのは疑いのないところ。80点。

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