アンデスの勇者たち
1992
Victor VICP-177

 冒頭に置かれたアイマラ語による伝承曲 "Jacha uru (Gran día)" については端折る。複数メンバーによる十数秒程度のコーラスは見事だが、大部分は器楽演奏だからである。(器楽曲については同様にことごとく飛ばす。)次の "Rebelión de los ponchos" の0分36秒から始まった歌声に魅了されてしまった。ビビアーナとの出会いである。技術的不安は皆無だから録音時点で17歳とは到底信じられない。とにかく生気に満ち溢れている。高音部でも可能な限り地声を使い、裏声はサビの最後だけである。(それもストレートな発声であり、決して「技巧ひけらかし」には走っていない。)つまり破綻を決して恐れていないのだが、それで実際に全く破綻していなのだから掛け値なしの賞賛に値する。
 トラック4はグループ名と同じ "Condorkanki" である。既に他の歌手で知ってはいたけれども、私は当盤を聴いて初めて曲の素晴らしさを理解した。ここでのビビアーナは先の曲をはるかに上回る力強い歌唱を聴かせてくれる。やはり裏声の使用は最小限(反復部の頭だけ)に留めている。絶唱といっても差し支えない。これを聴いていた時、私はDreams Come Trueの吉田美和とよく似ていると思った。Jポップを滅多に聴かない私だが、ある事情(教えない)があって研究室の後輩(♀)からCDを借りていたのであった。それで別の後輩(♂)に訊いてみたら「吉田の声の方が伸びがある」との答え。しかし、そのディスクの所有者は肯定的見解を示していた。柔道に喩えると見事にジャッジが割れた訳だが、熱心なファンの方が賛同してくれたことを判断材料とさせてもらうならば、副審の旗が赤白に分かれた後に主審が手を挙げたのは私の方だったといえるのではないかと今になって思う。
 以後のトラックでもビビアーナの極上ソロを堪能することができる。しかしながら、この類い希なる才能の持ち主が活躍するのは何とたった5曲(トラック2、4、9、11および13)だけ。いかにも勿体ない話ではないか! 特に11曲目 "El cóndor pasa" は残り1分20秒を切ってから30秒ほど歌うだけである。それまでの間(3分以上!)も器楽演奏を聞かされるというだけでも苛ついてくるが、途中に入る彼女の裏声によるヴォカリーズには心底から腹が立つ。そんなもん要らんから早よ歌わせろとリーダー(親父)に詰め寄りたくなってきた。一時は5/15(当盤収録曲数)で33点を付けたろかと思ったほどだ。
 槍玉ついでということでレネ・カレアーガにもう少しケチを付けておく。解説によれば12曲目 "Amigo" は「最高の出世作」ということである。確かに名曲だと思う。しかし、ここで彼がソロを受け持っているのは何としてもいただけない。貧相としか言いようがないではないか。声の持つ力や歌唱力はビビアーナと比較するまでもない。こういうのに滋味を感じる人がいるのかもしれないが、純粋に高水準の歌唱を求めている私の耳には果たしてプロ歌手としての技量を備えているかも怪しいと聞こえてしまうのだ。ラストの "Perfume de carnaval" では全篇が凡庸ソロだからさらにケシカランと思っていたが、解説を見たらオマール・カレアーガの担当と判明。とはいえ、この兄貴にしても声の魅力にはまるで欠けるし、父親譲りのショボい歌い方だから聴いていると萎える。(なので普段はトラック13終了後に再生を止める。)ビビアーナがあまりにも素晴らしいため器楽中心曲には目をつぶる(チャラにする)ことにしたが、男性ソロの2曲は全く買えないから結局13/15=86.666666.....ということで87点とする。

コンドルカンキのページに戻る