件の番組を観た当時の状況をKさんへの私信に書いている。

> 私は最近NHK-BSで「ベートーヴェンの探求」という番組を観て以来、
> フルトヴェングラーに興味を持ち始めています。その番組ではショルティ、
> ムーティ、(古楽器分野の)ロジャー・ノリントン、そしてマゼール(やは
> り「マゼル」になっていた)&ヴァイオリニストのフランク・ペーター・ツィ
> ンマーマンにスポットが当てられつつも、往年の名指揮者の演奏の一部分が
> 流され、とても面白かったのですが、中でも最も「やりたい放題」で個性的
> だったフルトヴェングラーに凄みを感じました。基本的には遅めのテンポで、
> フェルマータ(休止)は完全に止まってしまったと感じるほど長めに取り、
> その一方でここぞという時に狂ったようなアッチェレランド(加速)をかけ
> る。彼のスタイルは今では「時代遅れ」「コンクールに出たら落選間違いな
> し」などと批判もされているようですが、非常に説得力があることは疑えな
> いと思います。私は交響曲第5番ハ短調の(作曲者と関係ないところで付け
> られた)「運命」という表題は好みませんが、あのようなドラマティックな
> 演奏を聞き込んだ人ならば、「運命」の呼び名は相応しい、むしろその名が
> 付いていない方が不自然だと思うことでしょう。音質はモノーラルですが、
> 私が我慢できないジリパチノイズ(SP復刻版では聞かれる)もありません
> でした。しかし、1枚でも買ってしまったらのめり込みそうで、それが怖い。
> 出張で中古屋の前を通りかかっても入るのは止めにしようかな・・・・
> (ところで、その番組ではフルトヴェングラーとトスカニーニだけが指揮を
> している映像ではなかったのですが、両者ともとても恐かった。トスカニー
> ニはレコードをかけた後で部屋を歩き回るシーンでしたが、いかにも癇癪を
> 爆発させそうな神経質な性格の持ち主であることが伝わってきました。一方
> フルトヴェングラーは終始うつむき加減で何かを考えているような様子、そ
> して最後に顔を少し上げます。それがニヤっと笑ったようにも見えるのです
> が、却ってゾッとします。夢にも出てきそうなおぞましい表情です。)
>  戻って、個性的といえばノリントンによる快速テンポの「英雄」も躍動感
> があってメチャメチャ面白かったですね。ベートーヴェンの交響曲はバーン
> スタイン&VPOによる全集の他、一部の曲で「名盤」の呼び名の高いディ
> スクを持っているだけですが、ブラームスやブルックナーなどと比べるとは
> るかに主観を込めやすい性格を持っているだけに、指揮者の解釈を比較する
> には格好の材料だと思います。ただ、ブルックナーの聴き比べも十分できて
> いないのに、ベートーヴェンの交響曲を何種類も買い集めて聴き比べる余裕
> があるかなあ?(01/09/17)

 ・・・・で、結局こうなってしまった。(以下は自己紹介ページ2002年版)

> 昨年のページで触れたブルックナーの交響曲のCD蒐集は150種類あたりか
> らペースダウンし、代わってのめり込んだのがベートーヴェンです。昨年
> NHK-BSで放映された『ベートーヴェンの探求』という4回シリーズの番
> 組にて、現代および過去の名指揮者による演奏シーンを観たのですが、解釈
> のあまりの幅広さに改めて驚くとともに「ベートーヴェンってこんなに面白
> かったんだ!」と目が点になってしまいました。それが契機となり、交響曲
> 全集4組をはじめ多数のディスクを購入することになりました。当初は個性
> 的な(極端な)演奏の聴き比べに熱中していたのですが、年末に入手したヴァ
> ント&北ドイツ放送響(80年代のスタジオ録音盤)の全集を聴いて目から鱗
> が落ちました。表面的には奇を衒ったところのない真っ当な解釈なのですが、
> それでいて凄味や殺気を感じさせるのはやはり流石という以外ありません。
> 許光俊氏が「偏執狂ブルックナーの音楽はヴァントのような理詰めのやり方
> だといい演奏になる」というようなことを書いていましたが、その手法はベー
> トーヴェンでも絶大な威力を発揮していると思います。(本当に惜しい人を
> 亡くしました。改めて合掌。)

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