ダニエラ・メルクーリ(Daniela Mercury)

Daniela Mercury(別名Swing da Cor)
1991
Terrascape/Eldorado ML-51028

 もちろん家畜語風に「マーキュリー」と読んではいけない。それはともかく、これは彼女のファースト・アルバムである。(上記のように2通りの名前で出回ったらしい。)実は私はビクターが2年後に発売した国内盤(VICP-5248)を持っているのだが、原題を無視した「アシェー・クイーン」というタイトルはどうにも認めがたい。(歌手名の日本語表記「ダニエラ・メルクリ」はまあ許すが。)ちなみに竹村淳「ラテン音楽パラダイス」では「1991年にデビュー、アシェー・ミュージック(ポップ)のクイーンと謳われる人気者となったダニエラ・メルクーリ。アシェーとは神の力をさすが・・・・」などと紹介されている。中原仁による当盤解説にも同様の記述があることから、どうやらそれに因んだネーミングらしい。(あるいは奴の仕業?)
 ブラジル北東部(ノルデスチ)に位置するバイーア州のサルバドール(州都)出身である。既に当サイトで採り上げたガル・コスタやマリア・ベターニアらのディスクを聴けば明らかなように、この地方の音楽は野性味に溢れているのが最大の特徴といえる。(愛好家には怒られるかもしれないが、洗練さは二の次にしているようなところがあると私は考えている。)当盤もトラック1 "Swing da cor" からそれが全開である。出だしの "Não, não me abandone...." (私を棄てないで)の途中で乱入してくる「ダンダダッダダッ」という強烈な打楽器音にいきなり驚かされる。主部に入ってからも激しいリズムが炸裂し続ける。(これはショルティ&シカゴ響によるブルックナーの第6交響曲級だ。)それに負けてなるものかと声を張り上げて応酬するメルクーリもある意味立派だとは思ったけれど、このような喧噪が私はどうにも苦手であるため、入手後しばらくは敬って遠ざけていた。(アシェーには相応しい扱いといえる?)それゆえカーステレオでの聴取用に編集(1ミュージシャンから原則的に1曲採用)したテープにも比較的落ち着いた3曲目 "Milagres" を選んでおいた。ところが、激しい音楽にもある程度耐性ができた今となって、当盤収録の11トラック中には完成度の低いものが一つとして含まれていないと判ったのである。暴力的ではあってもルールはちゃんと守っているといった感じだろうか?
 まず何よりも歌唱力を称えねばなるまい。声量は相当なものだろうし伸びも張りも十二分にある。これがデビュー盤とは信じられないほどに技術的水準も高い。また音楽も決して一本調子ではなく、硬軟取り混ぜて曲を配置しているため飽きることはない。唯一の難点は私の好みから遠いということだけである。(もし合致していれば90点は優に超えていたはず。)こればっかりは仕方がない。80点。試しに(芸風の変化に期待を掛け)竹村が自著で紹介していた第4作の "Feijão com Arroz"(96年)あたり聴いてみようか? そちらも邦題の「白と黒」は相当に改竄気味だが。そしてジャケットは全く私好みではないけれど。なお、その国内盤にはボーナス(トラック16)として "Você abusou" の西語版 "Usted abusó" を収めているようだが、さらにTradicional japonêsの "Ue wo muite aruko (Sukiaky)" をも加えた海外盤もあるらしい。気になる。

おまけ
 同時期に同じ中古屋で買ったBeleza(ベレーザ)の「ジョビンに捧ぐ」(原題は "Tribute to Antônio Carlos Jobim")を執筆中に思い出した。海外盤は13曲収録ながら日本盤にはボーナストラックが数曲加えられていたはずである。(また、なぜかカーペンターズのヒット曲「マスカレード」が入っていたことも憶えている。)が、それらの何れもが良くなかった。メルクーリとは対照的に口先でボソボソ歌っているだけ。特に私の最も好きなボサノヴァである「ジザフィナード」での媚びを売るような歌い方には我慢ならなかった。もちろん即刻売り決定。あるサイトにて「ヴォーカルが良くない。心に残らない。」と切って捨てているのは絶対正しい。(そんな代物が結構売れたようだが信じられん。)手元に残していたとしても20〜30点程度の評価しかできなかったであろう。

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