セザリア・エヴォラ(Cesária Évora)
Miss Perfumado(香しき乙女)
1993
Quattro QTCY-1056
オビの「溢れるほどのサウダージ・・・・・・ラテンとアフリカの熱い血潮」という宣伝文句が目に留まったため、名古屋市内のどっかの中古屋で買ったはずである。その時まで私は歌手の出身地である「大西洋上の島々からなる国、カボ・ヴェルデ共和国」の存在を知らなかった。(ちなみに、NATIONAL GEOGRAPHIC誌が「アフリカ ─ 希望の大地」という特集を組んだ号に付いていた大陸地図の下の方に「アフリカの島国」という項があり、「乾燥と過放牧に悩むカボベルデは、国民の過半数が島外に住み、海外在住者からの送金に依存している」と紹介されていた。)原盤は前年(1992年)発表と思われるが、詳細については不明である。なお歌詞で使用されているのはクレオール語と思われる。ウィキペディアによれば「意思疎通ができない異なる言語の商人らなどの間で自然に作り上げられた言語(ピジン言語)が、その話者達の子供によって母語として話されるようになった言語を指す」とのこと。厳密にいえばカボ・ヴェルデで話されているのは「ポルトガル語を上層言語とするカーボベルディアン・クレオール」ということになる。ポルトガル語と共に同国の公用語となっている。(当盤ライナー執筆時点では、クレオール語は日常的に使われていながら「将来的には公用語にしようという動きがある」という段階だったから、その後事態が進展したらしい。)綴りは微妙に、というより葡語とはかなり異なっているようにも見えるが、語感は明らかに似ているから、当盤を「ポルトガル語圏の音楽」に分類しても決して不当とはいえないだろう。
ブックレットやネット上で見ることのできる歌手の写真はいずれも南の島(といっても北緯15度ぐらいだが)に多そうな堂々たる体格である。(彼の国の主食は何なのだろうか気になる。)その体から発せられる歌も貫禄十分である。またドスの利いた声ながら艶も感じられる。
冒頭収録の "Sodade" には「ノスタルジー」という邦題が与えられている。葡語なら当然 "Saudade" となるところだ。どっちにしても正確な翻訳が不可能な単語だからやむを得ない措置だろう。ちなみに "sodade" は末尾が明瞭に発音されないため「ソダー」としか聞こえない。なので「そういえばドラゴンズに曽田という中継ぎピッチャーがおったなあ」と思いつつ聴いていたのを憶えている。(実際には「そた」なのだが。)それはともかく、この曲はイントロがやたらと長い(50秒弱)。歌になってからも同じメロディをひたすら繰り返すだけなので、3分過ぎの間奏で飽きてしまった。主題の展開や曲想の変化なしに5分近い曲を聴き通すのはさすがに辛い。
しかしながら難ありと聴いたのはこのトラックのみ。重苦しい感じの2曲目 "Bia"、次の弾むようなリズムによる "Cumpade Ciznone"、どちらも完璧に歌いこなしているだけでなく、並々ならぬ風格を漂わせてくるのが素晴らしい。ダンプカーの重量感と自転車の機動力を兼ね備えたとでもいうべき希有な歌手である。ところで、何となくながら当盤収録曲は短調が圧倒的に多いように思ってきたが、改めて確認を試みたところ、長調も少なくとも3つ、他に部分的に長調に転じているものを含めればそれ以上混じっている。しかしながら、どことなく物悲しく響くという点では全く一緒だった。それこそがモルナを始めとするカボ・ヴェルデ音楽に共通する特徴である、とまでモグリの私には断言できないけれど。どうもこういうのは自分の手に余るようだ。
歌手のみならず、ピアノ、ギター、打楽器(マラカスやパーカッション)などによる伴奏も極上。一部トラックで活躍する手拍子や合唱にも品がある。決して身の危険を感じるような音楽ではないから90点止まりとはいいながら、減点対象は冗長トラック(Sodade)のみ。よって89点とする。
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