パトリシア・カース(Patricia Kaas)

Je te di veus(永遠に愛する人へ)
1993
Epic Sony ESCA-5457

 フランスのポピュラー音楽を聴いて感動したという記憶が私にはほとんどない。(好きなシャンソンならいくつかあるけれど。)NHKのテレビやラジオの語学番組で放送されたエディット・ピアフとかジュリエット・グレコといった(おそらく超大物の)女性歌手による歌唱も特に印象には残らなかった。(後者は今でも下の名前の語感から反射的に男性と勘違いしてしまうほどだ。)むしろジョルジュ・ブラッサンスやセルジュ・ゲンスブールなどの男性歌唱の方が好ましかったりする。何せ作詞作曲家の自作自演ゆえ、せいぜい「ヘタウマ」のレベルなのだが。そういえば、大昔にエルザ(Elsa)という若い(たしか10代後半だった)歌手の国内盤「夢物語」(原題 "Rien que pour ça ...")を聴いたことがある。実は衝動的な「ジャケット買い」であり、あまりの下手さ加減に呆れた私はすぐ手放してしまった。曲は悪くないのだが、口先でボソボソ歌っているだけなので心に響いてくるものは何もなかった。「日本以外にもアイドルに毛が生えた程度の歌手が活躍できる国があるのか」と驚いたこともよく憶えている。
 そんな事情もあり同国の音楽、特に「フレンチ・ポップス」に分類されている音楽に対しては良いイメージを持っているとは到底言い難いのであるが、にもかかわらず今回紹介することになる女性歌手3名のディスクに手を出したのは、彼女たちがいずれもFM雑誌の特集で採り上げられていたからに他ならない。とはいえ、それらにしても「買って良かったあ」と手を叩いて喜べるほどの満足を得られた品は一つとしてない。いや、かつてCDの収納場所が一杯になりそうだった時には、「この際まとめて処分したろか」と検討したほどだ。今はひとまずその危機から脱しているけれど(新しいラックを買い足したため)。
 まずはこのパトリシア・カースから。ウィキペディアでは「フランスの歌手・俳優。現在フランスで、最もCDセールスとワールドワイドな人気を誇る歌手」と紹介されているが、その世界的な人気というのは真実のようで、Wikipediaでは本国はもとより多数(2桁)の言語版で採り上げられている。
 オリジナル・アルバムにもかかわらず当盤は16曲入りで73分超と盛りだくさんである。ただし最後の "Just une chanson" は中島みゆき作詞作曲による「かもめの歌」のカヴァーであり、日本盤のみボーナス・トラックと思われる。
 実際のところ歌は十分上手いし、完成度が低いと思われた曲は一つとしてなかった。なので、どのトラックにも当然ながら合格点は与えられる。だが通しで聴くと何とも煮え切らない。ここで「CDジャーナル」データベースのコメントから引くと、「恋する心を素直に歌ったラヴ・ソングが中心で、しっとりとした印象」とあるが、そのような音楽ばかりで起伏に乏しいからウンザリしてくるのだ。ドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」(演奏時間約10分)を6〜7回リピート再生すれば十中八九眠くなってくるはずだが、それと同じような感じだろうか? あるいは仏語特有の抜けの悪い、いや耳当たりの優しい響きによる歌唱を長時間耳にすると必然的に飽きが来てしまうということかもしれない。要は相性(好き嫌い)の問題に過ぎない訳だが。皮肉なことに3曲採用された家畜語曲の方は退屈せずに済んだ。またトラック15(本来なら終曲)"Entre dans la lumière" では後半に合唱が加わってからの盛り上がりがなかなかに感動的だった。次の「おまけ」は、くどい歌い方に辟易させられただけ。ハッキリ言って「蛇足」である。
 湯川れい子によるライナーに「ピアフの再来」というフレーズが2度使われている。それはたぶん正当な評価なのであろう。だが、そのピアフ自体が私には「???」という存在だから(以下略)。とにかく私にとっては「猫に小判」的アルバムゆえ無難に75点を付けておく。

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