エンゾ・エンゾ(Enzo Enzo)
Best of ENZO ENZO
1998
BMG BVCP-21004(74321-60060-2)

 最近まで日本語では「エンゾー・エンゾー」だと思い込んでいた。(塩蔵ワカメやコンビーフを反射的に連想してしまうけれど。)また仏語カナ表記の慣例(例えば "Henri" は「アンリ」)に従って「アンゾ・アンゾ」と綴るべきではないか(そして実際には「オンゾ・オンゾ」のように聞こえるのではないか)と考えてきた私だが、歌手はロシアとポーランドの血を引いているという話だし、本名もKörin Ternovtzeff(コリーン・テルノヴチェフ)といかにも東欧風である。なので、"Enzo Enzo" も素直にローマ字読みしても怒られないのかもしれない。何でこんなヘンテコな芸名にしたのかという謎は残るが。なおwikipediaではfrとjaのサイトのみが紹介している模様。
 当盤は過去3作から抽出したベスト・アルバムとのこと。14曲収録で約49分。HANAKO編集部の生井沢克美なる人物が執筆した解説に「圧倒的な声量を誇るとか、天使の声の持ち主とかいうわけではない」との一文を見つけたが全く同感である。声はざらつき気味でちっとも良くないし、歌唱力にしてもパトリシア・カースより明らかに劣る。ところが印象は上回るという結果になった。
 1曲目イントロでのギターの「ジャン」にいきなり驚かされたが、以降も複数打楽器がひっきりなしにギコギコと音を立てている。スペイン語曲ではこういうのは嫌いなはずだが、どういう訳か耳に心地よい。仏語の曖昧さがうまい具合に中和しているのだろうか? 導入部の終わりの方で曲調がガラッと変わる。その直後 "¿ A dónde voy ?" という西語フレーズ(この曲のタイトルにもなっている)が飛び込んでくる。初めて聴いた時には仰天した。だが非常に効果的だ。終わり近くではこの「私はどこに行くんだろう?」という疑問文を連呼し、しかも最後はヤケクソ気味に「ボーーーーーーーーーーー」と10秒以上引っ張る(結局「イ」は聞き取れない)が、これも見事な演出と感じ入った。
 とはいえ以降のトラックについて特筆すべきところはない。実際、忘却の彼方へと去っている。それでもメリハリが利いている分、退屈することなく聴き通すことができるのは大きい。また、先の"¿ A dónde voy ?" 以外にも彼女の半悪声がエキゾティックな曲想と合致していると思われるトラックが複数あった。(逆に「いかにもおフランス的」とでも言いたくなるような品の良い音楽にはイマイチ。)カースの "Je te di veus" を上回る点を与えるとしよう。76点。
 ところで、さっき見たところ当盤のアマゾン・マーケットプレイスへの出品価格は13575円だった。そんなにも稀少価値のある品なんだろうか? 一方、カースの方はといえば多数売りに出され、しかも最安値は何と1円である。中身にそれほどの差がある訳では絶対ないのだが・・・・

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