タリーア(Thalía)

En Éxtasis
1995
Emi Music Mexico H2 7243 8 36850 2 8

 わが国のメディア(ja.wikipedia含む)では「タリア」と表記しているが、「ラテン・グラミー」の表彰式で司会のグロリア・エステファン他が「リ」を強調しているのを耳にして私は訝しく思っていた。今回の執筆を機に海外サイトを調べてみたところ、やはり“i”にアクセントが付いていたから文句なしに「タリーア」である。
 名古屋在住時代に中古屋でよく見かけたのは次作 "Amor a la Mexicana"(1997)だが、顔を大写しにしたジャケットのあまりの怖さに手を出す気にはなれなかった。(HMVの販売ページに「ジャケットの美しい瞳に悩殺」とあるが、視線でなく刃物で刺し殺されそうである。)当盤は私が当地滋賀で定職に就いて3年目の2000年にロス・アンヘレス郊外のショッピングセンターで買った。ちなみに私の生涯唯一の米合衆国訪問時である。ミシガン州にあるレイクスペリオール大学(州立)でのサマースクールを受講する学生の引率という大役(?)を仰せつかった私だが、研修が終わったら是非とも元祖ディズニーランドに行きたいという彼らのリクエストに応えるため帰路はLAに寄ることとなった。それで前の晩はDLすぐ近くのホテルに宿泊したのだが、行楽地に全く興味が湧かないため「お役ご免」ということで好きにさせてもらうことにした。要はいつもの行動パターンとしてCD漁りを試みたのだが、既に他所(ブルックナーのディスク評)でも述べたように廉価盤(それも日本でも買えるもの)しか置いてなかったのでガッカリ。当盤およびマゼール&BPOのブル7という2枚を購入するに留まった。(ともに10米ドル弱だったような。)収穫がほとんど無かったため、ラテンアメリカからの出稼ぎ労働者と言葉を交わしたことが唯一の楽しい思い出である。
 閑話休題。Wikipediaは「メキシコ、メキシコシティ出身の歌手、女優、実業家。スペイン語圏や東南アジアでは絶大な人気を誇り歌手以外にもテレノベラ(日本で言う昼ドラ)の女王としても有名である」と紹介している。ここから舌の根も乾かぬうちに脱線。「テレノベラ」といえば私には「GAME OF LIFE」(Juego de la Vida)が記憶に新しい。(そうでもないか。)1時間枠で全165話というとんでもないロングランのドラマだが、本国では相当な高視聴率を得ていたらしい。その日本語吹き替え版をKBS京都が2004年10月から放送を開始した。私は正直言って理解度3割程度ながら(もちろんトレーニングのため)副音声の西語による試聴を続けていたのだが、年明け早々に休止、そして敢えなく打ち切りとなってしまった。何でも「視聴率が7%に達しなければ配給を停止する」という契約を結んでいたらしいのだが、ハッキリ言って無茶苦茶である。あのローカル局にそんな高率を獲得している番組など皆無のはずだから。当時「社運を懸けて」という記述をあるブログで目にした記憶があるが、あるいは会社更生法の適用を受けてまで経営再建を進めてきた同社が起死回生を狙ったのだろうか? だとしたら見通しが甘すぎである。まず週4度(月〜木)放映していたから40週以上かかったはずだが、(NHKの朝の連続ドラマ小説のような15分番組ならともかく、)そんなに長期間見続けるだけの辛抱強い人間などそう滅多にはいない。実際のところ連ドラの多くが1クール(11-12回)完結となっているようだが、それが何かと忙しない現代日本では丁度良いスパンなのである。また、「冬のソナタ」を契機とした韓流ブームに続く新規市場を開拓するつもりだったのかもしれないが、これも見当違いが甚だしいと言わざるを得ない。善玉と悪玉にハッキリ分かれた明快なストーリー、加えて派手なアクション場面(暴力、時に殺人)が毎回登場するのも確かに面白いといえば面白いが、何でもかんでも開けっぴろげというのは観ていて白けるものだ。やはり「チャングムの誓い」のような「耐え難きを耐え、忍びがたきを忍び」スタイルの方が日本人には圧倒的にウケが良いはずである。
 では、ようやくにして本題に移る。とはいえ大して書くことはない。トラック1 "Piel morena" の出だしから「もう少し素直に声を出してくれよ」と恨みごとを言いたくなった。以後もツンチャカツンチャカのリズムをバックに元気よく歌っているだけ。サビで合唱が応援に加わってくると多少持ち直したものの、これも結局は歌手の相対的地位が低下したからに過ぎない。以降も基本的にイケイケのスタンスは変わることがなく、実力相応の曲を揃えているお陰で破綻せずに済んでいるとの印象しか持てなかった。そうなると音楽が私の好みか否かだけで評価が決まってしまう。で、実際のところ落ち着いて聴くことのできるトラックの占める割合は小さく(4/14)、これでは60点がやっとである。頻繁なスタンドプレー(虚仮威し)がシャキーラほどあざとくなかったのが救いか。

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