インマ・セラーノ(Inma Serrano)

Cantos de Sirena
1997
Dro East West 0630183902

 これからしばらくの間、Luz(Casal)同様に中部圏在住だった元ネット知人Nさんのサイト(今年になって掲示板は閉鎖されたものの他コンテンツは存続される模様)を通して知ることになった西語圏の歌手を採り上げることにした。
 手始めに選んだのはこのInma Serranoである。当盤の冒頭に収録されたタイトル曲をとても気に入っているから。Nさんの歌手紹介を読んで聴いてみたくなった私だが、職場の生協でもネット通販でも扱っていなかったため入手に手間取ってしまった。ようやく名古屋出張の際に足を踏み入れた輸入盤店(どこだっけ?)のラテンコーナーに1枚だけ置いてあった当盤をゲットした。要はたまたまである。
 やはりトラック1 "Cantos de sirena" に触れねばなるまい。これはLuzの "Entre mis recuerdos" にも肩を並べようかという超名曲である。(結構売れたらしい。)序奏→A→B→A(合唱)→C→A(合唱)→間奏→C→A(合唱)という構成で、各部分の旋律が何れもシンプルかつ魅力的であるという点も共通している。出だしから「カーン・トース・デー・シレーナー」を(タンタンタンタタンタンというリズムで)淡々と歌う。一方、混成合唱が受け持った場合には折り目正しく「カン・トス・デ・シレーナ」(タンタタンタタンタ)となっている。実はメロディを律儀になぞっているのはそっちの方で、セラーノは少し崩しているのである。加えて彼女の声は擦れ気味だから脱力感が相当に漂ってくる。さらにCではハスキーさを強調してくるが、やり過ぎの一歩手前で踏み留まっているため気品はいささかも損なわれていない。よって熱唱として快く受け止めることができるという訳だ。ふと「完熟」という言葉が浮かんだが、これは畑で栽培していたトマトが真っ赤に熟した様からの連想である。何にしても類い希な名唱といえる。
 トラック2以降は電気楽器の多用に加えリズムが前面に出てくるため、私には少々うるさいと感じられてしまうのが惜しい。それゆえ当盤はこの曲にトドメを刺す、と言いたくもなってくるところだが、動詞の直前に「ほとんど」という副詞を付けるべきであると後に思い知らされることになる。10曲目 "Contigo" はキーボードのみを伴奏とするトラックであり、当盤中では異彩を放っているが、しみじみ調のバラードを心ゆくまで堪能できるのが嬉しい。その何か未練を残しているかのようなエンディングの後に続くのが終曲の "Una vez más" である。開始直後はドラムを叩いているだけだが、やがて前曲と同じハ長調と判明する。歌は最初こそ静かながら次第にトーンが上がり、サビの "una vez más" の連呼で大いに盛り上がる。Nさんによる「サイコーに良いです」との賛辞に全く偽りはなく、いつ聴いても元気が出てくる音楽だ。調の連続性からも先の "Contigo" で布石を打っていたのは明らか。この見事な構想には思わず「巧い!」と声を上げそうになった。
 途中で中弛みするような印象を持たれてしまったかもしれないが、それも一方的にこちらの問題であり、音楽の質自体は決して低くないと思う。(100×3+80×8)÷11=85.45454545....ということで85点にしよう。


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