ニディア・ロハス(Nydia Rojas)

Florecer
1997
Arista Latin 07822-18853-2

 最近はやりのライフスタイル(LOHAS:Lifestyles Of Health And Sustainability)とは無関係なので注意されたし。って無理矢理結びつけようとするのは自分くらいのものか? それはほぼ間違いないとして、この歌手もネット通販B社の宣伝文句につられてCDを注文したはずである。「犬」のバイオグラフィーの出だしに "Mariachi vocalist Nydia Rojas was born in Whittier, California in 1981 but grew up in Guadalajara" とあるように米国生まれメキシコ育ちである。(ただし生年についてen.wikipedia.orgは1980年としている。)また、当盤のケース裏の写真で身に付けている衣装もマリアッチ風である(右手に例の大きな帽子を持っている)から、そちらを本業としているのも確かなようだ。当盤は前年リリースの "Nydia Rojas" に続く2ndアルバムである。10曲で約35分収録。
 冒頭収録の "Llévame Contigo" には魅了された。歌手のパワフルで伸びのある声が弾むようなメロディおよびアレンジとピッタリはまっている。サビ以降が秀逸。で、ブックレットを開いてみたらアナ・ガブリエル作と判明。納得である。本当にいい曲だ。次の "Que ta vaya bien" も悪くない。ところでイントロにて「ホォーホォー」と奇声(裏声)を発しているのは歌手自身だろうか? かつてパラグアイ西部(超過疎地)の先住民居住地に住んでいた頃、家同士が数十から100メートル(あるいはそれ以上)離れていたため、村人(主に女性)が同様の声で隣人を呼んでいたのを思い出してしまった。よく通るのである。次の "Dime por qué" のデュエットもまずまず。相手のArturo Rodríguez de Guardianes de Amorとやらが何者かは知らないが。
 ところが トラック4 "Amor con desamor" で突如の失速。これもガブリエル作品ゆえ音楽自体は申し分ないが、どうも出だしから音程が怪しい。そしてサビで撃沈。"No me interesa" あたりの最高音のラ(D)がまるで出ていないのである。「限界を超えちゃったので自棄のやんぱち」といった感すらある。同曲はガブリエルの "The Best" にも収められているため改めて再生してみたところ、当盤と同じヘ長調が採用されていた。(もちろん破綻などしていない。)そうなるとロハスが本家を踏襲したのが間違いといえなくもないが、といって移調したところでどうにかなるものでもないように思った。脳内で下方(ニ長調あたり)に移行してみると印象は全く冴えないのである。結局のところ「カヴァーしたのが敗因」ということになろう。
 これから中盤にさしかかろうというところでの評価急落は痛い。ポップス風の "Di amame más"(6曲目)など凡庸としか聞こえなかった。が、続く "Quiero estar contigo" で持ち直す。元気いっぱいの歌唱に好感が持てた。コーラスとの掛け合いも見事。この曲もサビからヘ長調になるが、最高でもソ(C)止まりなので歌う側も聴く側も苦しくはならない。だが "Paso las noches"(8曲目)での再度の投げ遣り歌唱に幻滅。要は身の程さえわきまえていれば問題ないということに尽きる。民謡調で落ち着いたラス前の "Mi llanto vale más"は聴き応え十分だった。(なお、ここでも序奏で例の呼び声が聞かれた。)
 このように出来映えには多少ムラがあるものの、まだ若い時期の録音という点を考慮して70点を付けることにした。とはいえ、もう少し歌唱力と円熟味の加わったアルバムを堪能したいというのが本音である。しかしながら、当盤以降は "Si Me Conocieras"(1999)→ "Nydia"(2001)で打ち止めとなった模様である。(ちなみにウィキペディアでは英語版のみがロハスを紹介しており、es.wikipedia.orgでは検索しても出てこないが、あるいはジャンキーの歌手として認識されているためかもしれない。)「あの人は今?」コーナーに依頼しようか、というのはもちろん冗談であるが、もしかすると米国かメキシコの田舎に引っ込んで健康的かつ持続的な生活を送っているのかもしれない。(←しつこい。)

追記
 執筆中にAmazonマーケットプレイスにて上記3rdアルバムの叩き売り(イーブックオフ アマゾン店が¥99で出品)を見つけてしまった。さすがに手を出さない訳にもいくまい。よって必然的に下に書き足すことになる。簡潔に済ますつもりだが。


Si me conocieras
1999
Hollywood RECORDS HR-62175-2

 上記 "Florecer" のわずか2年後の作品ながら安定感が抜群に増している。かなり歌い方が大胆になったが綻びは全く生じていない。4曲目 "El jaripeo" では、激しい音楽に乗せて時に裏声をも駆使しながら朗々たる名唱を聴かせてくれる。仰々しくはあるものの、タニア・リベルタッのような独り善がりには陥っていないため、「やりすぎ」の一歩手前で踏み留まっているのが何といってもありがたい。これが当盤では白眉。技量相応の曲のみを歌ったのが第一の勝因といえるが、無駄な力みが取れ余裕が出てきたことも大きいように思う。着実に成長した跡が窺えるから前作比2割増の84点を与えよう。本当は85点でも良かったが、トラック6 "Luna blanca" にてデュエット相手の凡唱に水を差された。同じく9の "Smile" はタイトル通り当盤唯一の英語曲ながら、生まれた国の言語であるためか歌手の発音には全く問題なし。よって減点対象ともしない。

おまけ
 フラメンコ調の2曲目 "Te volveré a encontrar" についてブックレットでは "con el acompañamiento de Gipsyland" と付記している。この共演者「ジプシーの国」であるが、サビのチャカチャカ形式(手拍子風のリズム入り)が似ているに留まらず、男性ヴォーカルはどう聴いてもNicolás Reyesである。そこで「王様」と何かつながりがあるのかと思い調べてみた。HMV通販のバイオグラフィーに「結成:2000」で "Anchored by Kiko Motos, the lead touring vocalist for the Gipsy Kings and his son, Juanito" とあったから無関係ではなさそうだが、ニコラスの名はどこにも記載されていない。また、Wikipedia(日英西)はGipsylandはおろか、Kiko MotosやJuanitoにも一切触れていない。謎というか不気味だ。ひょっとして「本家」と「元祖」のような醜い争いが繰り広げられてたりして(←たぶん想像過多)。

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