エリャ・バイラ・ソラ(Ella Baila Sola)
Ella Baila Sola
1996
EMI Latin H2 7243 8 55199 2 5
「彼女は1人(独り)で踊る」という呼称にもかかわらず女性2人組なのがよく解らないが、それは措いといて脱線する。
間もなく1年になるが、昨年(2006年)12月のM−1グランプリで史上初めてアマチュアが決勝に残った。それは「変ホ長調」という名の女性コンビで2人とも現役OLらしい。(あの芸風なら同じ長調でも勇壮な変ホよりは中途半端な感じの「変ニ長調」とか「嬰ヘ長調」の方が似合うのに、と思いつつ私は観ていたが、)会社の給湯室での会話をそのまま漫才にしたような掛け合いに笑わせてもらった。ところが審査員の付けた点数は予想外に低かった。うち島田紳助は「野球に喩えたらボーク」「セットポジションで投げてない」などと述べ、他も困惑の表情を浮かべつつ奥歯に物の挟まったようなコメントをするだけであった。(松本人志は後にブログで酷評していたという話だ。)要は審査に値するだけの基準を満たしていないと言いたかったのだろう。そんな彼らの態度にも一応は筋が通っていると思われたから、一部ネット上で提出された「イチャモンを付けたに過ぎない」という見解を私は支持しない。もしプロがわざと素人っぽく演じても同様の低評価を下すことができたのか、という疑問は残るけれども。
さて、ここで採り上げるElla Baila Solaにしても、アマチュアの延長線上というか、ズルズルやっているうちにいつしかプロになってしまったという印象を受ける。とはいえ「変ホ長調」のようなぎこちなさは全く聞かれない。(ちなみに彼女たちはプロ転向を否定しているらしい。)ちゃんとプロの水準はクリアできている。もしかすると音大などでそれなりのトレーニングを受けてきたのかもしれない。何にしても変にスレていないというか、初々しさが感じられるから準えてみただけである。ジャケット写真を眺めていたらデビュー作「待つわ」で名を残した一発屋「あみん」をついつい思い浮かべてしまった。
長い枕を置いた割には書くことが思い付かない。重唱は呼吸ピッタリで不協和音は聞かれないし、収録曲の多くは伴奏に節度があって喧しくないから、車で移動中のBGMなどには最適だろう。(私用のドライブを全くしない私が言っても説得力皆無だが・・・・)しかしながら、特にこれといった魅力を感じることがなかったのも事実。アナ・ガブリエルの "Mi México" 評ページに「1アーティスト1曲」の原則に基づいて編集したカセットテープのことを記したが、私はこの2人組から "Lo echamos a suerte" (トラック2)を選んだ。例のNさんのサイトによると96年にスペインで大ヒットしたそうである。確かに当盤中では最も出来が良い。とはいえ、これも私にとっては結局「可もなく不可もなし」という曲である。よって無難に70点を付けておく。ちなみに片割れ(岡村孝子)のみ現役を続けていた「本家」の方は実に24年という長ーい休止を経て今年(2007年)活動を再開したそうである。どうでもいいことだが・・・・(ってゆーか、勝手に「分家」呼ばわりするんじゃねー!)
おまけ
スペインの2人組ということで、かつて中古で買ったAzúcar Morenoの「アスカル・モレーノ!」(原題 "Mambo")を思い出してしまった。当時はラテン歌手のCDが時に国内でも大当たりを飛ばすこともあり、ライナーには「次はコレ」「私の一押し」みたいな賛辞が並ぶのが常だった(註)。が、私は一度聴いてダメの烙印を押した。ちなみに国内盤発売は1992年で「CDジャーナルデータベース」には「ちょうどバルセロナ・オリンピックと時期的にもピッタリ。ジプシー美人姉妹によるフラメンコ・ハウスが今年はブームになるらしい。」とあるが、容姿頼み(中身スカスカ)ではどうしようもない。事実わが国では売れなかった。消費者もそこまでバカではない。(なおグループ名の日本語表記だが、アクセント位置を考慮すれば「アスーカル・モレーノ」とすべきだったであろう。それが結局空振りに終わってしまった理由ではもちろんないが。)
冒頭収録の "Mambo" からして才能の欠片も感じられない。激しい曲に合わせてただ声を出しているだけという印象。映像であればダンス(たしか解説によればフラメンコ風)との合わせ技で魅せることも不可能ではなく、それが制作者の狙いだったのかもしれないが、音楽作品として聴けば全く取るに足りない。何より呆れたのが最初から最後までユニゾンだったこと。(少し前に歌手デビューしたマナカナだって要所ではちゃんとハモっているじゃないか!)これでは2人でやる付加価値が全くない。本来超名曲の「ベサメ・ムーチョ」や「コンドルは飛んでいく」までが平板を極めたとでも言いたくなるような凡庸な歌唱に終始しているのを聴き、遂に堪忍袋の緒が切れた(ここで中古屋逆送処分決定)。今思うに、本文で触れた「変ホ長調」どころではない正真正銘の素人芸に付き合わされた訳である。10点でも甘すぎる! こんな連中が日本でほぼ完全に忘れ去られたのは当然だが、今世紀に入っても活動を続けているのを知って驚かない訳にはいかなかった。大丈夫かスペイン人?
註:竹村淳がエリゼッチ・カルドーゾ「絶唱」のライナーに「ところで、いま音楽ビジネスの世界ではワールド・ミュージックがなにかと取沙汰されており、その波にのって従来なら日本ではまず陽の目を見ないような音楽家のレコードもリリースされたりしている」と書いている。明らかに否定的な口ぶりである。この「黒砂糖」なんぞを持ち上げていた節穴ライターなど、竹村が槍玉に挙げたかった筆頭格ではないだろうか?
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