マルセロ・アルバレス(Marcelo Álvarez)
Marcelo Álvarez sings Gardel
2000
Sony Classical SK 61840
マルセロ・アルバレスといえば「ポスト三大テノールの一人」などと紹介されることもあるが(あと二人は誰?)、本当に彼らの域に迫ることはできるのだろうか? その内の一人なら追いつき、追い越すことも十分可能だろうが・・・・
それはともかく、かつてNHK-BSにてアルバレスが出演していた音楽番組 ─当盤のレコーディング風景も紹介されていた─ を観た私は、オペラ歌手によるタンゴもそんなに悪くないと思ったのだが、一旦はそれっきりになった。そして昨年(2007年)にアマゾン・マーケットプレイスで新品が安く売られていたのをたまたま見つけたので買った。13曲収録でトータルタイム49分35秒。うち11曲が44歳時に飛行機事故で散ったガルデルの作品で、他はともに超有名曲の "Caminito"(Filiberto)および "La cumparcita"(Rodríguez)という構成である。なお、ソニークラシカルから「アルバレス・シングス・ガルデル〜わが懐かしのブエノスアイレス〜」というタイトルの国内盤(SICC-304)も出ている。
さすがに技術的な不安は皆無。スケール感もタップリ。だが何かが足りない。そういえば、そんなことを既にフリオ・イグレシアスの "Tango" 評に書いていたと思い出した。自己流崩しの入った彼のタンゴには違和感を覚えなくもなかったが、一方アルバレスは折り目正しく進んでいくのは良いものの逆に芸がなさすぎという感じがする。それはパラグアイに住んでいた私に宛ててブエノスアイレスの放送局RAEが送ってくれた1本のカセットテープ(メルセデス・ソーサの紹介ページ参照)によって今も聴くことのできる往年の名歌手によるものと比べても明らかだ。とはいえ劇性の強い曲ほど聴き応えがあったように思う。4曲目 "Por una cabeza" がその筆頭に挙げられるだろうか? 続く "Volver" も上出来の部類に入る。おっと、これは最近公開された映画(歌と同名)によって今やタンゴとしては "La cumparcita" にも肩を並べるほどの知名度を誇っているかもしれない。逆にゴージャスな歌に見合わない曲だと貧相な印象を受けてしまうということかもしれない。それは言い過ぎとしても「ちょっとクドいぞ」と言いたくなることは多々あった。
最後に多重録音を駆使した"Mi buenos aires querido"(末尾収録)について少し。作曲者自身による1934年の歌唱とアルバレスによる新録音とのコラージュである。ところで、上述のテープの最初に入っていたのが他ならぬ自作自演だった。この曲に限らずガルデルの歌は正直ヘタクソなのだが、飄々として何ともいえぬ味がある。一方、アルバレスによる擬似デュエットという試みは面白いし、その意欲も買えるのだが、新旧録音の切り替わりの度に感じられた音質の落差(声質は何とか許容範囲内)、それ以上に両者の芸風のあまりの違いが災いし、私は素直に愉しむことができなかった。
とはいっても完成度には全くケチを付けられないし、"Tango" のページ下に述べたことと矛盾しないためにも、あちらより1点上(81点)としておく。
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