ローラ・フィジィ(Laura Fygi)

コルコヴァード
1994
日本フォノグラム PHCE-45 (464 537-2)

 最初はメラネシア出身かと思った。実際にはオランダ人である。(ちなみにディスクのレーベル面には "Phonogram B.V. The Netherland" と記されている。)解説によると3枚目のアルバムだが、このジャンルでは初のリリースらしい。執筆者の馬場啓一は「ローラ・フィジィにはボサ・ノヴァが似合うのだ」と述べている。ところで、私も参加している「パラグアイ・メーリングリスト」にて以前「ポルトガル語はズーズー弁みたいなもの」(一方スペイン語は関西弁だったっけ?)という旨の投稿を目にしたことがある。(同様の見解は複数ブログでも紹介されている。)何でも寒い地域の人がなるべく口を動かさずに喋れるようにと発達してきたのが北日本のズーズー弁という話だが、もちろんポルトガルでは事情が違う。たしか「大航海時代の船の上は風が強く、口を大きく開けたらまともに話せない」とかいう説明だった。おそらく冗談半分だろう。それはともかく、ポルトガル語を耳にすればスペイン語よりも響きがずっと滑らかであるとの印象を受けるのは間違いない。(リズミカルな西語、メロディアスな葡語という対比も成立するような気がする。)同様にオランダ語(あるいは私がパラグアイ西部で耳にしてきたNiederdeutsch=低地ドイツ語)も歯切れの良さを特徴とするドイツ語と比べたら明らかに「ズーズー弁」的である。なので、阿蘭陀国籍を持つフィジィがボサノヴァと相性が良いという説明には一応納得がいった。
 ところが、曲目一覧の表記から予想された通り圧倒的多数(12/16)が家畜語(by本多勝一)で歌われているから同時に首を傾げざるを得ない。奇しくもA・ジルベルトのベスト盤と同様の低打率ではないか!("Dindi" の出だしに落胆させられるところまで一緒だ。本来なら「ポルトガル語圏の音楽」に名を連ねる資格などないと思っているのだが、お情けで入れてやる。)しつこいようだが、これではボサノヴァが死んでしまう。ただし歌手としての実力は大きく上回っており、冒頭のタイトル曲 "Corcovado" など葡語トラックでの歌唱はなかなかに見事だ。(同じズーズー弁のお陰か? だからこそ凡庸な出来に終わってしまった12曲が余計に惜しまれる。)なので倍の50点を奮発(←どこが?)してもいいかと思ったが、残念ながら別に減点対象があった。それがトラック14の西語曲 "Sabor a mí" である。案の定というべきか訛ってしまっているのだ(─5)。よって45点とする。

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