マイラ・アンドラーデ(Mayra Andrade)

Navega(ナヴェガ〜航海)
2006(国内仕様盤は翌年)
Sony/BMG 82876 817802(VIVO VIVO-236)

 CDジャーナル2008年1月号の「今月の推薦盤」の2〜3ページ目(註)にて大きく取り上げられていたのが当盤である。(各ジャンルについて1枚のみ通常の2倍のスペースが与えられる。)とはいえ、私は「何をいまさら」という気分だった。既に2006年7月発売の当盤をHMV通販の紹介記事で知った私は、速やかに入手に踏み切っていたからである。その見出しは「カポ(註)・ヴェルデ発衝撃の大傑作が登場」という大仰なものだったが、いざ聴いてみても満足度は「そこそこ」に留まり、「うまくしてやられたなぁ」と頭を掻いたのであった。(註:原文ママ。ただし下で引いた本文では「カボ」と記載されている。ちなみにネット検索すると「カポ・ヴェルデ」が結構多く出てくるけれども、まさか彼の島では "Cabo" をそのように発音するのだろうか? ついでながら、私も以前やらかしてしまった「カヴォ」も少数ながら見い出されるが、こちらは明らかな誤りである。)ところが、久しぶりに試聴しての印象は格段に良くなっていた。ここで件の記事の冒頭から少し引いてみる。

 カボ・ヴェルデ発Cesaria Evoraに続くディーヴァ現る

 アフリカ・セネガルの沖にあるカボ・ヴェルデ諸島(旧ポルトガル領)
 出身の世界的シンガーCesaria Evoraセザリア・エヴォラに続く、
 21世紀の素晴らしい歌姫がセンセーショナル・デビューします。

 その注目のディーヴァMayra Andradeマイラ・アンドラーデは、
 カボ・ヴェルデ諸島出身の両親のもとキューバで生まれ、セネガル、
 アンゴラ、ドイツ、カボ・ヴェルデ諸島と絶えず移り住む中、
 幼少の頃よりブラジル音楽に傾倒していったとか。
 (以後は国際大会で優勝するなど、誰もが羨むような経歴を積み
  上げてきたらしいが割愛。もちろん嫉妬しているからではない。)

上からは「無国籍音楽」の臭いがプンプンしてくる。なので当盤もクレオール(融合)文化の国で生まれ育った歌手が歌うに相応しい曲を取り揃えていると考えられる。(ちなみに2003年から歌手は活動拠点をフランスへと移したらしい。)で、実際のところ長調曲はブラジル音楽のように底抜けに明るいという訳ではないし、短調曲でもポルトガルのそれのように身が切られるほどの寂寥感が漂ってくるということはなかった。要は中間色の音楽ということになろう。なお5曲目 "Comme s'il en pleuvait"(仏語曲)を除き、クレオール語歌詞のようである。子音の“k”が多用されている他、見慣れぬ文字の組合せが非常に多いため異様と映るが、響きはエヴォラの "Miss Perfumado" で聴いたものと大差ないように聞こえたから。(要は何語をベースとしているかによって表記法が異なっているだけで、実質的には同じではなかろうか? マレー語とインドネシア語のように。)
 さて、購入直後の私は先の仏語曲のみ合格点で他は凡庸と判定したのだが、今は全く逆である。1曲目 "Dimokransa" はギター、ベース、打楽器というシンプルな伴奏に合わせてアンドラーデが歌っている。別にどうということのないメロディおよびアレンジである。歌手もハッとするような上手さや声の美しさを誇示している訳ではない。だが、中盤から俄然耳を惹き付けられる。変化に乏しいので本来ならウンザリするはずなのだが・・・・何とも不思議な音楽である。そんなトラックが以降も続くのだ。テンポや曲調に関係なく途中から気怠さが支配するようになるが、それでいて緩むということがない。何とも不思議なアルバムである。とりわけ気に入ったのが "Tunuka"(トラック4)と "Nha nobreza"(同11)の2曲。もちろん両方とも初めて耳にする音楽なのだが、何ともいえぬ暖かさ、というより懐かしさを感じずにはいられなかった。(ただし後者については、「ラーララシーシシドードド・・・・」という音型がルスの "Entre mis recuerdos" のそれと類似していることの影響は否めない。)洗練されてはいるのだが、どこかモッサリしているようにも聞こえるのだ。クラシックの作曲家に準えれば文句なしにドヴォルザークだろう。
 ふと子供の頃から引っ越しを繰り返してきたという日本人女性歌手のことを思い出した。当盤収録曲は彼女が歌ってもピッタリはまるという気がしたのである。既所有のアルバム中でも(ブラジル有名曲のカヴァーあたりは時に浮つき気味とも聞こえ、「もうちょっと年輪を加えてからでも遅くはないのでは?」などと思ったりしたけれど)、この手の「重くも軽くもない」「古くて新しい」音楽との相性が抜群に良いと思われたためである。まあ、徹底的に聞き込んだ訳でもない私が言っても大して説得力はないだろうが・・・・・(実はアンドラーデとは声質や声域が近そうだとの短絡的発想に基づいているが、そういえば島国出身者という点でも共通している。やっぱこじつけかな?)
 閑話休題。先に挙げた2曲(トラック4&11)を95点、仏語曲を70点、他を85点として平均し、小数部を四捨五入すれば85点となった。

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