アナベラ(Anabela)

Primeiras Águas
1997
Movieplay Music(Tokyo M-Plus) SMP 850103(PE 51207)

 ついつい名前から釣りを連想してしまったが(←ヘラブナじゃないって)、ブックレットの表紙と裏表紙に使用されている顔写真もどことなく魚類っぽい(失礼)。それはさておき、フィリーパ・パイシュのページに登場していただいたNさんがやはり初投稿(1999年2月26日16時過ぎ)で紹介されていた女性歌手である。改めてKさんのマドレデウス掲示板の過去ログを閲覧したところ、「そうそう、ANABELA、好きな人いませんか?」に続けて「爽やかで優しくて、まるでリスボンを流れるテージョ川をゆっくり下っていくような心地よい歌です」とあり、さらに同日夜の2度目の投稿ではアナベラをこのように評されていた。

 緩やかな川をゆっくり下っていくような心地よく優しい声。
 水面にキラキラと反射する午後の陽光を思わせる自然な演奏。
 ファドに近い歌を歌っても「夜」のイメージじゃないのが不思議。
 ほのかに混じる(なぜか)沖縄風のリズムも軽やかです。
 CDは「Primeiras Aguas」が手に入ります。
 休日の午後に聴くのがよいでしょう。

こういうのに非常に弱い私ゆえ、読後に「これは何としても聴かなければ」と思ったはずである。そこでディスクの入手を試みたところ、(四苦八苦した挙げ句何年もかかってしまったパイシュとは対照的に)出張帰りに立ち寄った店でアッサリ見つかってしまった。以下しばらく手抜きに走らせてもらうとして、今度はKさんへの私信(99/08/11)より当時の状況を記した文章を載せる。(ちなみに初っ端に出てくる海外出張とは年に2度ずつ調査に足を運んでいたインドネシアのスマトラ島南端の州を指す。その時は6度目の訪問ですっかり気が緩んでしまっていたため、マーケットで財布をすられてしまった。被害額は85万ほど。ただしルピアだったが・・・・1万札と2万札でパンパンに膨れ上がっていたから格好の餌食となったのも当然だと思う。ついでながら「清涼剤」というのは、あるプロレス団体の公式BBSに出没していた悪質投稿者のことだろうか? ならば現在は違うハンドルネームで活躍し、Kさんが時にご自身のブログで紹介されている御仁と思われる。)

  出張を終えて帰国した日に名古屋市内のタワーレコードに寄って、以前N
 さんが紹介しておられたアナベラのファーストアルバム「プリメイラス・ア
 グアス」を買いました。(地元には輸入盤を扱っている店が全くなく、また
 インディーズ物ということで生協に注文して2割引で購入するという手も利
 かなかったのです。)シンプルな伴奏に彼女のさわやかな声がとても良くマ
 ッチしており、暑さを紛らすにはまさにピッタリというCDで大いに満足し
 ました(これぞ真の「清涼剤」)。店には彼女の新譜「オリージェンス」も
 置いてあって、どちらにしようか迷ったのですが、後で判ったことにはファ
 ーストアルバムが全てポップス調の曲であるのに対して、新作はファド(ア
 マリア・ロドリゲスのカバーも含む)やフォルクローレのアレンジだそうで、
 僕にとっては良い選択をしたと思っています。

今思い返しても「そうやなぁ」である。もし伝統音楽の方に手を出していたら、最悪の場合は昨年(2006年)暮れにアップしたアルバム(ジャンル名がそのままタイトルになっている)の評ページと同じく悪態を吐くだけに終わってしまった可能性もある。
 何にしても当盤には購入直後からまずまずの好印象を抱いていた訳である。ところで私は、アナベラの声がテレーザ・サルゲイロ(マドレデウス)と似ているとNさんが述べられていたように思い込んでいたが、実際には2度目の投稿で「MADREDEUSのテレーザにそっくりの声で、古い民族歌謡を好んで歌っています」とコメントされていたのはパイシュの方であった。その勘違いに気付かぬまま、私は賛同の意を先のKさんへのメールで表明していた。(ちなみに、今聴き比べてもサルゲイロの声質に近いのはパイシュよりアナベラの方であるとの印象は変わらない。)「声にキレがあるテレーザに対して、丸みを帯びたやや粘着質の声で透明度は少し落ちる感じ」という条件付きながら。さらに「"O Espírito da Paz" や "O Paraíso" といったスーパーヘビー級アルバムを聴くのがちょっとシンドイと感じる日には、アナベラをピンチヒッターとして起用するのも悪くない」といった見解も示していた。しかし、今や当時とは比較にならぬほど聴く音楽の幅が広がり、所有ディスクの枚数も増加している。そのため全くといっていいほど当盤に声が掛かることはなく、長い間ベンチウォーマー(棚の肥やし)に甘んじていた。それを本ページ執筆のため久しぶりにラックから取り出したという次第だ。
 だが改めてジックリ聴いても良いものは良い。トラック1 "Avenidas" から歌手の実力が一級品であることは十分窺い知れる。なお冒頭のノイズを最初私は雨音と思い込んでいた(実際にはアナログディスクの周縁部のトラッキングをイメージしていたと思われる)が、そう錯覚してしまったのはシンミリした曲調および歌手のウェットな声がシトシト降り続ける雨とピッタリだったからである。(ところがブックレット裏表紙の歌手は粉雪を纏っていたから、私は「どうも中身と合っとらんなぁ」と勝手に首を傾げていたのであった。)2曲目の "Quero ir" は軽快なポップス。これも悪くない。次のポルトガルギター伴奏による "A baleia blanca" は当盤屈指の名曲である。これを耳にされた方の多くは先に述べたサルゲイロとの類似性にも納得されることと想像するが、意地悪な見方をすれば「サルゲイロの劣化コピー」といえなくもないだろう。(当時よりも格段に口が悪くなっている私だ。)今聴くと、このようなシリアスな曲を歌いこなすのはアナベラにとって少し荷が重いかな、という気はする。一方、身の丈にあった音楽を歌っている彼女は本当に生き生きとしている。(まさに「水を得た魚」である。逆に言えば、サルゲイロが歌うにはちと軽すぎるといえる。)ありがたいことに当盤の大部分のトラックが該当している。聴き進む内に私もいつしか元気が出てきた。今回の試聴を機に魅力再発見となった訳である。これからも時々バッターボックスに立ってもらうことにしようか。
 曲の出来や歌手の力量をもとに忠実に採点すれば75点だが、ともにハ長調で歌われるトラック5 "Tantas estrelas tem o céu da boca" および同7 "Cais de abrigo" の優れた活力付与効果により3点ずつ(同じ調ながらトラック9 "O que está certo ou errado" は騒がしすぎるため除外)、さらにトラック8 "Amanhã escrevo-te outra carta" のサビの切ない歌唱によって3点上乗せする。84点。

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