カーペンターズ(Carpenters)

イエスタデイ・ワンス・モア
1993
A&M Records(ポリドール) POCM-1515〜6

 更新記録ページではつい悪ふざけでラテン風に表記してしまったが、要はRichard & Caren兄妹のことである。(蛇足ながら "Los Carpinteros" は西語で「大工達」を意味する。なお "The Carpenters" という定冠詞付き表記もよく見かけるけれど、実は外道らしい。そうなると「ロス」も必然的に不要ということになる。)
 この2人組に限らず、ビートルズ、サイモン&ガーファンクル、あるいはキャロル・キングといった英語圏の有名どころによるディスクは一応所有(確保)しているのだが、当サイトで採り上げるつもりは全くなかった。私が何を書いたところで「いまさら」という気がしたからである。ところが先月(2007年4月)20日に放送されたNHK総合「プレミアム10」の第203回「カーペンターズ 〜 スーパースターの栄光と孤独 〜」を観て気が変わった。(その日は自転車遠乗りで疲れていたため、録画して置いたテープを翌日夜に再生した。)番組の中身はともかく、流れた音楽に私は改めて&心底から感じ入った。そこで翌日が少々寝不足になるのも気にせず当盤2枚組を棚から取り出し通しで聴いた。そして「ありえへん」と言いたくなるほどの驚異的名曲&名唱がズラッと並んでいるのを再認識したのである。
 私がこの音楽集団を知ったのは、たぶん中1のことである。NHK-FM土曜午後のリクエスト番組(註)でよくかかっていたのである。(註:大津放送局のコールサインがJOQP-FMだったので、「QPリクエストアワー」という番組名を使っていたはず。今思うに愛らしい呼称ではある。たしか前半が洋楽、後半が邦楽という構成だった。)当時ヒットしていた複数曲は耳にしっかりと残った。が、その後はサッパリ。洋楽への興味を次第に失っていったからである。(というより、深夜放送の聴取に没頭するようになって以降、その音楽番組とも疎遠になりかけていたはずである。)それどころか「近頃カーペンターズの新曲がサッパリ流れてこんなぁ」と呑気にも思っていたところ、拒食症が原因で妹の方が逝ってしまったという新聞記事を目にしたのである。
 ここで話を数年飛ばす。名古屋で下宿暮らしを始めてからのことである。時折足を踏み入れていたレンタル屋にて、ある日彼らのベスト盤が目に入った。当時既にクラシックにのめり込んでいた私だが何となく聴きたくなったので借りた。ほとんど全て(後述)の曲が素晴らしいと思った。コピーテープは愛聴帯(?)になった。さらに3年以上飛ぶが、南米から戻ってしばらくしてからのこと、先述のベスト盤を値下げして再発(註)するとの情報を得たため予約して買った。(註:初発の番号がD50Y3154だから税込3600円の当盤は28%引きに相当する。)  解説(1987年1月執筆、93年3月補筆)には「リチャード自身の選曲・編集によるベスト・アルバムの超決定盤」とある。(ちなみに執筆者の名は「小倉ゆう子」とある。もちろん「コリン星」がどうのこうのと妄言をほざいている阿呆とは全くの別人である。)ただし、必ずしも当盤はデビュー以降のヒットを網羅しているという訳ではないようだ。全米チャートを昇ったにもかかわらずカレンが歌うのを嫌がった「ソリテアー」などは外されているし、逆にヒットとは無関係に採用された曲も複数あるらしい。(27曲中5曲はトップ40にも入っていない。)余談だが、国内独自の編集盤として95年に発売された「青春の輝き ─ ベスト・オブ・カーペンターズ」に収められた22曲中、当盤に収められていないのは「ソリテアー」および「ジャンバラヤ」の2曲のみである。(ついでながらHMV通販の紹介文によると、TVドラマのテーマに2曲が採用されたこともあって大セールスを記録し、発売後10年が経過した今も売れ続けているという話である。当時そのCDがバカ売れしているというニュースは私も耳にしていた。が、あれで初めて知ったというならともかく、したり顔で「カーペンターズっていいね」などと言っていた周囲の連中には「何だかなぁ」という白けた気分を抱かずにはいられなかった。とにかくブームを追っかけているだけという人種に向けて「遅ればせながらでも良さに気が付いたのなら、もう少し深く知ろうと考えなければ嘘ではないか?」などと文句を付けたくなる気持ちを私はいつまでも抑えることができないだろうとの予感がある。今になって同内容を既にマドレデウスの "O Espírito da Paz" のページ末尾に載せていたのを思い出した。なのでもう止める。)
 さて、先述のリクエスト番組で耳にする機会が最も多かったのは "All you get from love is alove song"(邦題「ふたりのラヴ・ソング」)で、これが当時の最新曲だったはず。(実際1977年発売のシングル曲だった。)その後リリースされた "Sweet smile"(邦題も同じ)も頻繁に流れた。また1973年に2度目の全米1位に輝いた "Top of the world" もしょっちゅう所望されていたが、たしかコカコーラのCMに使われていたのではなかったか? ただし、今の私はこれらの曲が耳当たりの良さで傑出していることは認めるけれども、その裏返しとして少々軽い感じを受けてしまうため、当盤を聴いて親しんだ曲のいくつかには一歩を譲ると考えている。中でもタイトル曲(DISC1冒頭)の "Yesterday once more"(邦題も同じ)やトリ(DISC2のラスト)に置かれた "Close to you" (同「遙かなる影」、初の全米1位曲)から伝わってくる滋味というか深みには比類がない。先に挙げた3曲が超名曲なら、これらは超々名曲ということになるだろう。時系列で見れば全く対応していないけれど、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲の中期と後期に準えることができるようにも思う。
 そもそも69年のデビュー曲 "Ticket to ride"(←「涙の」は要らんと思うけどなあ)からして極めて高水準である。今度はモセダーデスの "Serie Platino" ディスク評でゲスト出演してもらった元同僚(かつてビートルズのコピーバンドの一員だった)の話を持ち出してみる。実験室で当盤を再生していた時のこと、彼はカレンの実にさり気ない歌唱を耳にしても私がそうと指摘するまで同曲であるとは全く気が付かなかったのだ。すなわち4年前に発表されたオリジナルとは全くの別物といっても差し支えないほどの作品に仕立て上げられているといえる。(冒頭で触れた特集でも同趣旨のコメントが出されていた。)実のところ、英国人の歌唱は喚き散らしているだけのように聞こえて散漫な印象を受けるため私はあんまり好きではない。だから、本音としては落ち着いたバラード風にアレンジされたカーペンターズ版に「芸術作品にまで昇華されている」という賛辞まで贈りたい気持ちである。何にせよ、兄リチャードのアレンジャーとしての腕前が超一流であることを知るにはこの1曲で十分であろう。
 という訳で、当盤にはほとんど非の打ち所がない。「全く」と書かなかったのは理由がある。DISC1の9曲目 "Calling occupants of interplanetary craft"(邦題「星空への旅立ち」(コーリング・オキュパンツ))は混信のためか宇宙人がリクエスト番組の電話に出てしまうという設定だが、どうも企画倒れという気がしてならない。(これもラジオからリアルタイムで聴いた記憶がある。)冒頭のDJとエイリアンとの会話からして既に煩わしいが、歌の出だしも曲名と同一の歌詞の繰り返し(それも同音型)だからダレてくる。2分44秒から入るダミ声(合成っぽい)の "We've been observing your earth ..." はカレンの美声とは水と油、あまりにも場違い的に響くからさらに興が削がれる。こんな調子で7分以上続くのだからたまらない。そういえば、かつてレンタル屋で当盤を借りた時には46分テープ2本に収めるため私はこの曲を切り捨てたのであった。(曲順も少し入れ替えたはずである。ところでiTunesによる曲目一覧は当盤のそれとは少し違っている。2001年の再発時に "I just fall in love again" (邦題「想い出にさよなら」) が加えられるとともに曲の配列も一部変更されたが、そっちの方を表示しているためである。ちなみに私が槍玉に挙げた "Calling occupants..." はDISC1の末尾に回されているが、あるいは制作者も冗長さや完成度の低さを認めていたからかもしれない。)そのような事情により、略式採点法(全トラック中で佳曲の占める割合)を採用し、96点(26/27=0.962962・・・)を付けさせてもらう。
 最後に「プレミアム10」で観たコンサート映像の印象について記しておく。当盤で聴けるスタジオでのレコーディングと比較してもクオリティが全然落ちていないのに驚く以外なかった。(あれが口パクではないという前提付きだが、さすがにそんなことはないだろう。)ライヴやテレビ出演時には即興的に節を回すに留まらず適当に流したりする歌い手も決して少なくないように思うのだが、彼らは常に全力投球で臨んでいたのであろう。音響のチェックも非常に厳しかったようだ。そんな完全主義者の2人ゆえ、やがて精神を病んでしまったのも必然の成り行きといえるかもしれない。それにしても睡眠薬依存症から抜け出すための治療を受けていた兄が摂食障害に陥っていた妹をケアできなかったのはやむを得ないとはいえ、まさに痛恨の極みである。よく考えたらカレンはC・キング(1942年生)やジョーン・バエズ(1941年生、今後紹介予定)よりも後(1950年)に生まれていたのである。彼女たちのように今も現役を続けていたら私のコレクションが数倍に膨れ上がっていたのは間違いない。

おまけ
 来る19日に今度はNHK−BS2で「カーペンターズ・フォーエバー」(19:20から2時間特番)が放送されることを執筆中に知った。それで本ページの完成と公開を急いだという次第である。

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