Joan Baez in Concert
1988
Vanguard VCD-113/14

 CDの発売年については自信がない。製品に記載されているクレジットは上記のように1988年であるが、HMVでは98年、Amazonでは90年となっている。またオリジナルのLP発売はクレジット通り収録時期から遠くない63年でOKだろうが、国内外の「尼損」によると演奏年の異なるコンサートが2枚セットという形でリリースされたのは1976年が初めてだったと思われる。(言うまでもなくディスク番号はその名残である。)ついでながら、解説によると62年8月と63年10/11月に行われたコンサートを収録しているはずなのに、各種国内通販の紹介文には「ジョーン・バエズの3,4枚目である『イン・コンサート』(62年12月)と『イン・コンサートII』(64年3月)の2in1である」などと異なる年月が記載されているのはなぜだろう? それは措いといて、当盤に収録されている20曲は全てギター弾き語りである。まずは歌手紹介ページで採り上げた "Kumbaya"(トラック6)から始める。
 当盤に付いているのはブックレットではなく二つ折りの紙であり、開いた左半分に短い解説(ちなみに反対側はVanguardレーベルのCDリスト)を載せているだけだから仕方ないとしても、サンドパイパーズのベスト盤でもこの曲の歌詞および対訳については「都合により割愛させていただきます」とあったから私は怪訝に思っていた。何かヤバい内容でも歌われているのだろうか? そういえば、かつてナミビアから共同研究者が私の職場を訪れた際の歓迎パーティーではアフリカの歌としてこれを流したが、それを聴いた彼は「とてもエモーショナルな音楽だ」と語っていたから気になる。(ちゃんと理由を訊いとくんだった。)それで調べてみた。
 その中にアフリカの歌にもかかわらず英語で歌われている理由について述べたサイトがあった。元は米合衆国領の孤島に住むアフリカ系住民(もちろん先祖は対岸の大陸から強制連行された奴隷)の歌だったそうである。それを宣教師がアンゴラに伝えたこと(つまり逆輸入)によって同国に広まったらしい。その「アフリカのフォークソング」が米国(本土)に再度輸入された結果、同系同国人の間で「ゴスペル」として普及することになったということだろう。何にせよ奴隷制を引きずっているのは確かであると解ったものの、集中して聴いてもNGワードに該当するような際どい表現は聞き出せなかった。なので相変わらず釈然としない。続いて「『クンバイヤ』がキャンプで歌唱禁止」という記事も見つけたが、それも「『主よ(Lord)という言葉が繰り返されている』という理由で、主催者側から歌うことを禁じられた」との説明だけだからピンと来ないという点では一緒だ。(ならば宗教音楽は全てアウトではないか?)結局は暗礁に乗り上げた形となってしまった。
 だから、そんなことはサッサと棚に放り上げて虚心に耳を傾けるに限る。そうすれば、ここでのバエズの熱唱によって心打たれ、聴衆の合いの手(開始前に歌手が "Sing one with me" と呼びかけている)によって心温まることは請け合いである。同じフレーズを基本的に繰り返しているだけ(歌詞の変更も微少)なのに、これほどの感動が得られるのだ。こねくり回す必要など全くない。「音楽の原点とは何ぞや?」についていろいろと考えさせられる。(私ゃ作曲家でも何でもないんだが。)14曲目の賛美歌 "We shall overcome" (勝利を我等に)でも再び胸が一杯になるほどの感動をさせてもらった。
 その他のトラックについても曲と曲とのインターバルをなるべくカットせずに収録しているが、そこでの歌手と聴衆とのやり取り(バエズの冗談に客席がドッと沸くなど)が実に微笑ましい。しかし、ひとたび音楽が始まれば(コーラスで参加する場合を除いて)客席が水を打ったように静まり返るのも素晴らしい。皆が音楽に浸りきっている様子が伝わってくる。そして曲が終わる度に割れんばかりの大拍手。実際のところ彼女の歌唱にはそれだけの説得力がある。それはトラック7の核兵器に対するプロテストソング "What have they done to the rain"(雨をよごしたのは誰)に限らない。とにかく高音域での透明感が際立っているが、細かいビブラートが肉付けの効果を発揮しているためか線の細さは全く感じない。中音域の安定感とボリューム感も抜群である。先に公開した英語圏女性歌手と比較するならば、清楚さではブライトマン、力強さではバエズが僅かに上を行くということになるだろうか(この時点で一対一)。
 当盤で最も気に入ったのが17曲目の "Manhá de carnaval"(黒いオルフェ)である。1コーラス目のヴォカリーズ(ラララー)を聴いで満腹になてしまった。その後のポルトガル語歌唱がデタラメだったら全てがぶち壊しだっただろうが・・・・複数が収録されたイタリア語曲もやはり問題なし。ということで三本目(外国語の発音勝負)は文句なしにバエズが取った。
 おっと、本ページで両者を対決させたかった訳ではないから採点結果を示して終わりにしよう。先述のトラック17では3分09秒から切れ目なしでアップテンポのイタリア語曲が始まるが、この唐突感はいかがなものか。また検索からサビで繰り返し歌われる "Te ador" が曲名と判明したが、その記載漏れも感心できない。ということで1点ずつ引いて98点とする。

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