ソラーヤ(Soraya)

En Esta Noche
1996
Polydor 314-527 831-2

 「アメリカのニュージャージー生まれのコロンビア系アメリカ人」(Nさんのサイト参照)である。HMV通販にて歌手名で検索すると十数件が上がってくるが、当盤のリリース(1996年2月)が最も早い。どうやらデビュー盤らしい。("Soraya" というアルバムも存在するが、そちらは2003年発売の4thアルバムである。)また「英語とスペイン語のバイリンガル」(同)ゆえ、英語ヴァージョン(On Nights Like This)も同時発売されている。(ちなみに収録曲の数も並びも当盤と全く同じで使用言語のみ異なっていると思われる。ただし、トラック10の "Pueblito Viejo" だけは西語で歌われているようだ。その後も複数のアルバムを2ヶ国語で制作している。)
 さて、処女作にもかかわらず、この妙に落ち着いた歌唱はいったい何なんだろうと私は訝しく思った。ディスク冒頭の "De repente" では「突然」という意味のタイトルに逆らうかのごとく淡々と歌っている。際立った高音域も低音域も使われない。激しいリズムも出てこない。脱力感を漂わせるほどではないが、とにかくエントロピーの高い音楽という印象である。が、こんなんばっかりが延々と続くから、意図して盛り上がることのない曲ばかりを集めているのではないかと思い当たった。取り立てて美声ということもなく、かといって悪声でもない。歌唱力についても同様。しかしながら、まだ27歳だったにもかかわらず結構枯れているためか何とも不思議な味がする。よくは解らないが(そして抽象的な言い回しばっかりで恐縮だが)、この種の歌手は取り留めのないような曲を与えられた場合にこそ適性を発揮するということかもしれない。
 おっと、収録曲が何れも高品質(伴奏含む)であることを書き漏らす訳にはいかない。例えばラス前(トラック9)の表題曲 "En esta noche" はなかなかの佳曲である。だが、同レベルの曲が揃っているため特に感銘を受けるということはなかった。むしろ、その直前に収められた "Razón para creer" が当盤随一だと私は思っている。出だしから長調なのか短調なのかも定かでないままに歌が続く。が、1分過ぎでテンポがガクッと落ちるとともに転調し、ようやくにして調性をハッキリと(長調であると)提示する。この大胆な曲調の変化は非常に効果的。メリハリの少ない当盤中では異色作といえる。これに次ぐのが末尾に置かれた "Pueblito viejo" だろうか。やはり転調が上手く使われている。スローテンポの曲を叙情タップリに歌い上げているのが素晴らしいが、サビの音型がイタリアの名曲 "Quando m'innamoro"(邦題「愛の花咲くとき」)とちょっと似ているのはご愛敬か? 最後の3曲をそれぞれ90点、100点および95点、他7曲を85点と採点し、平均したらピッタリ88点となった。
 なお、当盤のように何とも掴み所のない芸風を今も続けているのかと思いつつ、本ページ執筆前に通販サイトでの検索を試みた私だが、HMVの歌手紹介文に「誕生:1969 in Point Pleasant, NJ」「死亡:2006年05月10日」とあったので呆然とした。さらに調べてみたところ、乳癌により37歳の若さで亡くなっていたと判明。(2000年に発病し、治療に専念するため歌手活動を3年間休業していたとは全く知らなかった。)2005年発表(ただし西語版のみ)の "El Otro Lado de Mí" が遺作となった。合掌。

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