Desde el Corazón de México
2003
BMG 82876 57008-2

 ある通販サイトの当盤紹介文を以下に載せておく。参考になるからではなく、あまりにもお粗末(誤字オンパレード)だからである。

 スペインの熟年5人組El Cosorcioの新作が感性。元Mocedadesのメンバー
 3人とSergio Balanco、Carlos Subyagaによって1993年に結成、卓越した
 コーラス・ワークで多くのラテン音楽ファンを魅了している彼ら。新作は
 17曲収録予定でその中には Mocedadesの曲も収録されています。スペイン
 だけでなくアメリカでも最大級にヒットした「Tomeme o dejame」や
 「Quien te Cantara」も収録されています。

 2003年6月2日、メキシコシティでの野外ライヴを収録したCDだが、ジャケット写真が凄い。会場となったZócalo 広場(註)を埋め尽くした聴衆数千人の大興奮が目に浮かぶようだ。同時にモセダーデスがこの国でも相変わらず根強い人気を保っていることが窺える。(そういえば、今年=2006年の春に外国人と一緒に花見をする機会があったので "Recuerdos" を持って行ってラジカセで再生した。何人か来ていたペルー人は子供を除く全員が "Eres tú" を知っており、口々に懐かしいと言って喜んでくれた。)

註:私にとってソカロは1989年と92年に歩いた思い出の場所である。ただし2度目はちょっと不愉快な目に遭った。広場を出てすぐのこと、ガラスが割れる音がしたので振り返ると、屋台で香水らしきものを売っていたオヤジが「おまえが触ったから瓶が落ちた」と絡んできた。何ら身に覚えがなかったので「知らん」と言って立ち去ろうとしたが放さない。おそらく外国人目当ての詐欺だろう。ムッとして「じゃあ一緒に警察に行こうか」と言ったら、(私が西語で答えるとは予想していなかっただろうが)後に引けなくなったのか向こうも凄んできて一触即発の事態となった。幸いにして通りがかりの人が仲裁に入り、私が無実であると証言してくれたため大事には至らならなかったが、ムシャクシャした気分は晴れなかった。その数日前には空港での両替所で職員がごまかそうとしやがったので、彼の国に対する評価はさらに下落した。また、初回の89年は語学研修のため食えるなバカ、いやクエルナバカという近郊都市に3週間ホームステイしたが、どうせ数などわからないと高をくくっていたのか、釣銭をちゃんと渡さない店員がゴロゴロいた。怒っても何ら悪びれるところがない。「騙される方が悪い」という処世訓をしっかり身に付けているのだろう。サンプル数が不十分と言われたらそれまでかもしれないが、(そして地方では事情が大きく異なっている可能性が決して低くないとも思っているけれど、)ゆえに私が抱いているメキシコの印象は「モラルが低い」である。パラグアイではこの種の悪行は全く経験しなかった。(あまりの治安の良さに、いつしか家のドアに鍵もかけずに外出するようになったほどである。とはいっても、私が住んでいた先住民定住部落以外の事情はよく知らない。)休暇を利用して旅行したボリビアも同様。一方、帰路で立ち寄った他の南米諸国ではそれなりに嫌なこともあったためイメージはちょっと落ちる。特にチリではスリに遭いかけたことによって、ワインや魚介類が美味くて安かったのも相殺されてしまった。ついでながらアジアについて。計7度出張したインドネシアでは(任務地のスマトラ南部ではレートが悪いので)ジャカルタのスカルノ・ハッタ国際空港で滞在費用全部を両替することにしていた。そのため必ず数百万ルピアになってしまったが、後ろに何人並んでいようとも私は1枚1枚数えた。額が合わなかったことは一度もなかった。ところが最後の出張時には引き続き国際学会で発表するためタイに初めて入国したのであるが、3万円両替したら私が暗算で導き出した額より1000バーツ少ない。「足りんやないか」とクレームを付けたら両替所の女は仏頂面のまま札を放ってきた。話はそれで終わらない。私の後に並んでいた同行者6名が揃いも揃って同額をちょろまかされていたのである。しかも、彼らの何人かは2度目以上の訪問で、この国はよく知っているなどと自慢げに話していたのだから呆れてしまう。ああいう場所で人を信用する方が悪い。あの女は警察に突き出されたという話だが、きっと給料の何倍、いや何十倍の金をカモ(日本人旅行者)から巻き上げていたに違いない。思い出しても腹が立つ。

そして、肝心のCDに入っている熱狂も尋常ではない。そのため、このアルバムについて「音楽のページ」に「非常に感動的である」と書いた。それは嘘ではない。ただし、正直なところ繰り返し聴くには少々辛いものがある。以下、その理由について述べる。
 再生開始直後から聞こえてくるのはよく知ったイントロ、"La otra España" だ。ところが耳に馴染んだピッチより随分低い、というより相当下に移調している。そして耳に飛び込んできたのは変わり果てた Amaya Uranga の声だった。変声期を通り越し、もはや完全に潰れてしまったのか。それは言い過ぎだとしても疲弊しているのは明らかである。一方、他のメンバーからは衰えが全く感じられない。Estíbaliz Uranga は相変わらずの透き通った美声に深みも加わっているし、男性3人も今まさに脂が乗り切っているかのように見事な歌唱を聞かせる。その中でA・ウランガだけが峠を過ぎてしまっているのである。トラック6 "La llamaban loca" では、デュオの相手(おそらくCarlos Zubiaga)のみがモセダーデス時代(同曲を録音した82年)のレベルを維持しているのだから、「手合い違い」という印象を受けずにはいられない。次の "Dónde estas corazón" では彼女は冒頭から辛そうである。リピート部分では、途中から聴衆に歌うのを任せてしまっている。あるいは、この日はよほど調子が悪かったのだろうか? それでも心暖かい聴衆は、かつてのヒットナンバーを一所懸命歌っている彼女に歓声を送っている。が、これでは現役選手で構成されるチームにマスターズ・リーグの誰か(香川伸行か亀山努か川藤幸三あたり)がただ1人紛れ込んだようなものではないか。聴いている内に憐憫の情がこみ上げてきた。(と難を付けるのは実はここまで。)
 トラック8は "Popurrí Mocedades"(モセダーデス・メドレー)である。最初の "El vendedor" のソロはやはりA・ウランガ。だが、技術的にも音域的にもさほど負担のかからない曲のためか出来は上で触れた曲ほどは悪くない。と思っていたら、やたらと勇ましいニ長調による間奏(次の曲への繋ぎ目)に移った。そして、ピアノの「ファ・ミ・レ・ド」という下降音型の直後に歌われたのは思いもよらないフレーズだった。"Como una promesa"・・・・・・・そう "Eres tú" である。聴衆にとっても完全なサプライズだったようで割れんばかりの(←野外コンサートだから不適当か?)大歓声が上がる。私にとってもう1つ驚きがあった。ソロをE・ウランガが務めていたのである。アマヤは自分が歌うのはもう無理だと考えてエスティバリスに持ち歌を譲ったのだろうと想像するが、それは誠に賢明な判断であった。サビの "huuuuu〜" もオリジナル通りの高音で歌い上げる。こうでなくては! 途中から満場の観客による大合唱に変わるのを聴いていたら思わず胸が熱くなった。
 ここで少し戻ってトラック3の "Piel/Búscame (Popurrí Sergio y Estíbaliz)"について。冒頭の「ドレミーファミレドレーミー、ミレドーファミレードシドー」(ニ長調)という男女コーラスのハミングが何ともいえず美しい。その後テンポが少し速くなってから男性ソロが、続いて女性ソロが入ってくる。知らないはずなのに何とも懐かしさを覚える曲である。続く "Búscame" も同様である。60年代のフォークソングあるいはカントリーといった感じ。もしかすると、当盤収録の何曲かは当サイトで扱う全ディスクに混じっても最もレトロと感じる音楽かもしれない。ところで、 "Búscame" が一瞬の間をおいて始まった途端、ここでも大歓声である。初めて聴いた時、これらがどういう曲か私は知らなかった。なので、何でこんなに盛り上がるのかと訝しく思った。そこで調べたところ、これらは彼らの最初の2枚のアルバム(1973年リリースの "Sergio y Estíbaliz"および翌年の "Piel" )のそれぞれ冒頭に収録されていると知った。つまり最重要曲だった訳である。なお、試聴サイトでオリジナル・アルバム収録の音源も聴くことができるが、当盤の方が一段も二段も完成度が高くなっている感じだ。この30年以上もの間、ひたすら円熟味を増し続けてきた訳である。本当に素晴らしい。
 戻って、後半はCBS移籍後、すなわちモセダーデス時代とのギャップが比較的小さい曲やテンポの遅い曲が主体となっているため、A・ウランガの衰えに起因する痛々しさも多少は緩和されている。トラック19 "El cha-ca-chá del Tren" (もうアンコールに入っているのだろうか?)は、まるで昭和初期の歌謡曲を思わせるほど(先の2曲以上に)古風なメロディだが結構気に入った。(ちなみに "El Consorcio" としての最初のアルバム "Lo que nunca muere" (1994) のトラック1に収録されている。)冒頭からアマヤとエスティバリスの二重唱で進められるが、何ら問題がない。この曲に限らず前者がコーラスの低声部を担当している場合は、例のドスの利いた声で「さすがベテラン」と言いたくなるほどの存在感を示してくれている。ラストはもちろん "Eres tú" 、今度はエスティバリスが通し(ノーカット)で歌ってくれる。(それなりの技量さえ持っていればという条件は付くが、)やはり誰が歌っても「不滅の名曲」であることに変わりはない。
 最後に採点であるが、A・ウランガが独唱者として前面に出てくる曲は、いくらオマケしても50点しか付けられない。それは全22トラック中10.75を占める(4曲からなるメドレーは1曲0.25で計算)。残りは90点をやってもいい。ということで、(50 × 10.25 + 90 × 11.75)÷ 22 = 70.454545(循環小数)となった。小数点第1位を四捨五入して70点とする。

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