Raíces
1989
CBS CDT-80123

 当盤については何を書いたらいいのだろう? イグレシアスの甘い歌声により(イタリアやフランスも含めれば)6トラック合計で31ものラテンの名曲が聴けるという非常に贅沢なアルバムである。既にナラ・レオンのページで触れた "Desafinado" が好例だが、「ええとこどり」をしているのも嬉しい。なお、同曲が冒頭に置かれているトラック4のブラジル・メドレーが私は最も好きだ。他のトラックの完成度も極めて高い。また、メドレーに入る前のイントロにも作曲者と編曲者の名が記されているが、そこに制作者のこだわりが表れていると考えても良いのだろう。上質の音楽に仕上がっている。収録時間が約40分と短いことだけが惜しい。98点。パート2出してくれないかな?
 以下トラック2 "Caballo viejo/Bamboleo" についてだけコメントしておく。先にドミンゴのページで採り上げたが、あちらでは「カバージョ・ビエホ(バンボレオ)」と表記されていた。これでは異名と誤解されかねない。全く別の2曲である。うちバンボレオはジプシー・キングスがオリジナルだが、彼らは "Bamboleiro, bamboleira...." と "Cuando el amor...." の共に激しい2種のメロディを繰り返し歌っていた。ディアマンテスのカヴァーも同じである。ところがイグレシアスはそこにシットリした調子の "Caballo te dan sabana...." を挟み込んでいるのである。実に効果的だ。これを知った耳には "Bamboleo" だけの歌唱が勢いだけでメリハリに欠けると聞こえてしまう。料理に喩えたら「脂っこいステーキに山盛りのポテト」あたりだろうか。もちろんカロリーは十分摂取できるが、下手したら一部のパラグアイ人みたいなブクブク体型にまっしぐら。ついついそんな印象を抱いてしまう。"Caballo viejo" は言ってみれば「彩りを添えるとともに箸休めとしての役割を果たす生野菜」である。「ハンバーガーにパリッとした食感を加えるレタス」でもいいか。ところで、ドミンゴも両曲サンドイッチ方式を採用しているのだが、どういう訳か "Bamboleiro, bamboleira...." の絶叫がない。格調高い自分には似合わないと思ったのかは知らないが、あれではチーズと野菜だけのハンバーガー(ハンバーグが入ってないからその呼称すら不適当だが)を食べているようで全く味気ない。

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