アイデー(Haydée)

En Vivo
2008
Disco Caramba CRACD-197

 どのページに書いたのかは忘れてしまったが、私が南米滞在中にほとんど毎日(ただし土日は休み)のように聴いていたRAE(Radiodifusión Argentina al Exterior、アルゼンチン海外向け放送局)の女性アナウンサーと同名である。当初私は佐藤アイレ(Aire Sato)と聞き間違えていたのだが。もしかしすると日本人に馴染みの深いハイディ(Heidi)と同源だろうか?
 いや、この際名のことはどうでもいい。問題は姓の "Milanés" である。そう。Haydéeは「ヌエバ・トローバの巨人」ことパブロ・ミラネースの愛娘だったのだ。あの超大物歌手の娘も同業に就いており、最近ライヴ盤をリリースしたという情報をCDジャーナル2008年7月号の「今月の推薦盤」欄から得た私は、ならばチェックしない訳にはいかないとの使命感により早速(生協ではインディーズ系は取扱対象外だったため)HMV通販に注文して入手した。(ちなみに当盤は同じ号の北中正和による連載「音楽的新世界」でも歌手の写真付きで紹介されている。)これはどうでもいい話だが、クレジットや歌詞カード中では「ミラネース」という表記が用いられているのに対し、解説中では「ミラネス」である。「*弊社のカタカナ表記と異なるところがありますが、筆者の意思を尊重しました」ということらしい。それはともかく、HITOSHI(って誰や?)による解説はなかなかの優れもの。情報量十分で気に障るような表現も見当たらない。これなら堂々と本名(フルネーム)を名乗っても良かったのでは?(と私は「柊冬夫」を念頭に置いて書いたのであった。)
 1曲目 "Iguapele" はヨルバ語歌詞によるアフロ・ナンバーということだが、正直よく解らないのでノーコメントとしておこう。2曲目 "Tu nombre" からはスペイン語歌唱が続くが、私が予想していたキューバの音楽とは全く違っていた。ジャズ・フュージョンで歌詞なしなら国籍不明である。(英語詞も違和感なく乗ると思う。)ただし期待外れということはなかった。女性歌手は超絶的な美声や技巧の持ち主ではないけれども、透明感のある声は私好みだし、気品漂う歌唱からは否が応でも育ちの良さを感じずにはいられない。ところで、当盤では7曲目 "Tú mi desengaño" と 10 曲目 "Encontros e despedidas"(唯一の葡語曲)で女性歌手がゲスト参加しているのだが、そのSuylenとLynnの姓もMilanésで、実は2人とも姉(後者がパブロの長女)である。彼女達の実力も紛れもなく一流。(トラック7冒頭でアイデーは共演者を紹介する際に最大級の賛辞を贈っているが、声にやや翳りがあるものの歌唱力は確かに互角以上だ。)素晴らしい音楽一家に拍手を送りたくなる。いつか三重唱を聴いてみたい。
 時にゲスト奏者(有名人らしいが知らん)を加えた器楽部も充実したサポート体制を取っており、文句の付けようがない。CDJのレビュー中の「現在のキューバ音楽界を代表する面々が揃っているわりには、大味なフュージョン風味が押し出されているところもあって、彼女の歌声が持つ軽やかな魅力を打ち消してしまっている部分もある」との記述に多少は危惧していたのだが、幸いなことに杞憂に終わった。西語ヴォーカルによるジャズ・フュージョンのアルバムとしてコレクションに加える価値は非常に高いと思う。難点はまたしても、だが、男性のデュエット相手。トラック8 "La cuerda floja de su pasión" で大袈裟な節回しを聴かせるDavid Torrensは格調が全然追い付いていないのでガッカリ。これのみを減点対象として89点を付けておこう。

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