ラモーナ・ガラルサ(Ramona Galarza)

Grandes Éxitos
2006
EMI Odeón 0946 379175 2 7

 この歌手にはやられた(後述)! パラグアイ音楽について検索していた時に偶然発見。"Un Canto al Paraguay" というアルバムを出しているらしい。あるフォルクローレ専門の通販サイトで一部トラックを試聴したところ、結構良さげだったので購入を決定。ただしamazon.co.jpが扱っていた(新品、中古とも入手可能の)4点のうち最も安く手に入る当盤にした(マーケットプレイスの出品価格598円)。先述のパラグアイ名曲集(20曲収録)とは異なり "India" と "Resuerdo de Ypacarai"のような有名曲は収められていなかったが、それらに対して食傷気味だったということもある。当盤も20曲(トータル55分ちょっと)を収めているが、曲名リストからも窺えるように西語歌詞のトラックが圧倒的に多い。なので最初に聴き終えた時は「もうちょっとグアラニ語曲が入っていてもいいんじゃないの」と思った。だが、判ってみればガラルサはアルゼンチンのコリエンテス州(リリアナ・エレーロと同じく同国北東部リトラル地方)の出身、つまりパラグアイとは近いものの他国の歌手であった。よって先の不満は(当方の無知に起因する)全くの見当違いということになる。何にしても「パラグアイの音楽家たち」に1ページを加えるという目論見は見事外されてしまった。(別にかまへんけど。)国内外サイトのバイオグラフィにある "La novia de Paraná"(パラナ河の恋人)という愛称はよく解らない。一方「チャマメの女王」というキャッチフレーズには具体性があるものの、海外ページに相当する記述は全く見当たらない。付けたん誰や? Chamaméがリトラル三州(パラナ川に面したエントレ・リオス州、コリエンテス州およびサンタフェ州)に起源を持つ音楽だから納得できなくもないが。
 実はもう一つ見込み違いがあった。半分以上(トラック1〜10および14)がモノラル音源である。もっとも不快なノイズ混入はほとんどなく、時にテープ損傷による歪みこそ聞かれたけれども1950〜60年大の録音としては十分な高音質といえる。(ちなみに当盤のトラック1と2に収録されている "Kilómetro 11" および "Virgencita del río" が1958年5月8日に行われたガラルサの初録音であり、それらは78回転/分のシングル盤としてリリースされた。)
 この人の持ち味は何といっても透き通った声である。やや硬質ながら高音を張り上げても耳当たりがキツくならないのが良い。このタイプの歌手によくありがちながら低音にはやや弱さを示しているけれど、それでも全ての音域の声が均質なのは立派だ。(3曲目 "Bendita Sea" で鳥の鳴き声を模した裏声を使っているのは除く。それも抑制が利いており十分に魅力的だが。)単に歌が上手いというに留まらず非常に上品な感じも伝わってくる。紛れもない超一流の実力者である。パラグアイに同等の女性歌手が思い浮かばないのが口惜しい。(私の一番の贔屓であるリッサ・ボガードですら一歩半ほど譲っている。あるいは捜索中のアマンバイ・カルドーソ・オカンポなら肉迫できるかもしれないという予感もあるが、国内通販では唯一HMVが扱っている "Volverás a Soñar" にしても入荷するかは定かではないし、若くして世を去った歌手が病気をおしてレコーディングに臨んだ (結果的に遺作となった) と知ってからは、声の衰えが隠せないだろうとの危惧から手を出す気が失せてしまっている。)ということで、先にルス・マベールの "Mi Destino" 評で述べた「パラグアイ音楽入門用として今後はこれを薦めることにしようか」は取り下げた方が良さそうだ。歌のレベルでは圧勝だし、向こうみたいに音が割れたりはしない。そして何よりも安い(日尼で新品を買っても1300円ちょっと)ので、興味のある方は "Un Canto al Paraguay" を買って下さい。
 歌唱自体は非の打ち所なし。ギター、アルパ、エレクトーン、そしてピアノによる伴奏にも格調の高さが感じられる。こういう場合の常套手段ながらモノラル1トラック当たり1点引いて89点とする。結果的にはボガードの "15 Años de Canto" と同点になり、向こうの顔も立った。よしよし。

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